フライ

君のためなら千回でものフライのレビュー・感想・評価

君のためなら千回でも(2007年製作の映画)
4.2
アフガニスタンと言う国の悲惨な状況と、一人の男性が少年時代に犯した過ち、そして衝撃の真実を通し、色々なものと向き合うヒューマンドラマ。

2000年アメリカ合衆国カリフォルニア州に住むアミールは、妻ソラヤと共に、届けられた自身の初出版された本を手に喜びを分かちあっていた。その時亡き父の友人で、アミールの良き理解者だったラヒムハーンから突然電話が。そして彼から言われたのは、'国に帰り、やり直す道が有る'と言う思いもよらない言葉だった。そしてパキスタンに来て欲しいと…
1978年アフガニスタン、カブール。少年アミールは、召使いアリの息子ハッサンと、人種や立場の違いはあれ、荒地の木にお互いの名を刻むなど、強い信頼の元、友として日々親交を深めていた。アミールの父ババは、汚職にまみれ政情不安なアフガニスタン国内に於いて財をなし裕福な暮らしをしていたが、愛する妻をアミールの出産により亡くしていた。
ババは、アミールの心の弱さを見抜いており将来を心配していたが、ババの友人で仕事のパートナーでもあるラヒムハーンは、アミールを擁護していた。そして父の気持ちを知ったアミールは悲観的になるが、ラヒームハーンは励まし、物語を書く事が好きなアミールに光るものを感じ常に寄り添い応援していた。
ある日ババは、アミールに盗みはこの世の唯一の罪で有ると、人殺しや嘘を着く事を例えに教えるが、アミールは余り理解しないまま頷く。
カブールの子供達にとって凧揚げは一番の遊びでありイベントなのだが、ババはハッサンの誕生日に、召使いの子とは思えない高待遇で凧をプレゼントする。
ある日カブール中の子供達が凧上げと糸切りで競う会いアミールとハッサンのコンビは、最強の敵の凧糸を切り歓喜する。糸の切れた凧を追いかようとするハッサンをアミールが応援すると、ハッサンは'君のためなら千回でも'と言って走り出す。しかしハッサンは、途中で身分の違いや人種差別をする年上のいじめっ子アセフ達により酷い虐待を受け、それを目撃したアミールは見て見ぬふりする。その後アミールは、ハッサンに対して態度を一変させアミールの大切な時計を盗んだと罪を着せる。ハッサンは何も言わずその罪を被るが、ババは許そうとするも、アリはハッサンと共に家を出る。
1979年12月アフガニスタンの政情は更に悪化。ソ連侵攻により、これ迄共産主義を腐してきたババはアフガニスタンに居れなくなり、家をラヒームハーンに託し、アミールと共にパキスタンへと国外脱出を試みる。
1988年アメリカ合衆国カリフォルニア州でババとアミールは暮らしており、アミールはコミュニティカレッジを卒業するまでになるが…

序盤、中盤、終盤と驚く程展開が変わるのだが、それが上手く繋がって行き、ラスト大きな感動を得られるストーリー展開に脚本の素晴らしさは勿論だが、これ迄名だたる作品を世に出してきたマーク・フォースター監督の演出の素晴らしさを感じた作品だった。当然キャストの素晴らしい演技があってこその面白さも。
アフガニスタンと言う国と国民が、どんな悲惨な歴史を歩み未だに報われない状況にあるか知っているので、尚更アミールとハッサンに感情移入してしまうが、知らなかったとしてもストーリーが秀逸に展開して行くので、誰もが悲しみと感動を味わえる素晴らしいヒューマンストーリーに思えた。
今のアフガニスタンは、色々な意味で地獄の様な世界だが、そんなアフガニスタンにも差別や偏見、汚職があったとは言え、近年迄人々が自由に生き、子供達が生き生きと遊ぶ時代が会ったのかと思うシーンを見て、とてもやるせない気持ちに。そしてアミールのハッサンに行った許されざる行為と、償いたいとしてもそれを許さないアフガニスタンの状況、更にアミールが知る衝撃の2つの真実など、かなり重い内容に心が痛んだ。そこに輪をかける様に、以前聞いた事のある、昔からのアフガニスタンやタリバンにある男色行為を思わせるシーンに、更なる悲しみと嫌悪感を覚えた。
多分殆どの人が、大なり小なり過去後悔する出来事と言うものを抱えながら生きているとは思うが、そんな後悔を引きづりながらも大人になり、色々なものと向き合い強くなるアミールの姿に感銘を覚えたし、同時に、自分の過去まで向き合いたくなる勇気を感じさせてくれた。
何より2時間と言う限られた時間の中で、アミールだけではなく、ババの強い父親と裏の顔、美しい妻ソラヤの真実、いじめっ子のアセフなど、人間像の描かれた方や設定が秀逸で、色々と考えさせられるだけに、一層作品の素晴らしさを感じた。

中々重い内容で、観ていて辛いシーンも有るが、もしもアフガニスタンと言う国を余り知らずに本作を見るので有れば、Wikipediaでも良いので多少知識を入れてから観ると、辛さは増すかも知れないが、それ以上の感動は得られると思うので、興味が有れば是非。
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