荒野の狼

君のためなら千回でもの荒野の狼のレビュー・感想・評価

君のためなら千回でも(2007年製作の映画)
5.0
『君のためなら千回でも』(原題 The Kite Runner)は2007年の129分のアメリカ映画。前半は1978年のアフガニスタンの首都カブールが舞台で、少年二人の友情と、パシュトゥーン人によるハザーラ人の差別、主人と召使といった人間関係・社会問題が描かれる。ハイライトが凧あげを競うお祭りで、空に鳥のように舞う凧がスピード感があり美しい。これが1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻により、主人公の少年はパキスタン経由でアメリカへと亡命。後半は、2000年、カリフォルニアの大学を卒業し作家となった主人公がタリバン政権のアフガニスタンに向かう話で、ここではタリバンの銃による恐怖の支配、石打ちの刑にされる男女、男児の性奴隷(バッチャ・バーズィー)などの社会問題と、主人公が少年時代の親友にどう報いるかという個人の成長の物語が描かれる。
本作を時代背景を抜きに友情物語として鑑賞するには、前半と後半に10年以上の隔たりがあり、多少無理のある設定で共感は得にくい。一方、政情不安定によるアフガニスタンの深刻な社会問題は、本作では見事に映像化されている。人命があまりにも軽く奪われていく状況の中で、個人の友情物語をはるかに超えた政治・社会問題が描かれた作品として貴重。
本作の社会問題が、過去のものではない証拠に、アフガニスタンでは本作は、少年の性被害のシーンが問題とされ、人種間の対立を煽るものとして、本作の映画上映は禁止となった。本作の主役を演じた二人の少年は、アフガニスタンでは、差別・脅迫の標的とされ、生命の危険にさらされ、外国に避難し本作への出演を後悔している(少年たちは、複数の映画賞を受賞したにもかかわらず)。このため原作者のカーレド・ホッセイニは、アフガニスタンの少年を映画に配役として選んだことを後悔している。
政治的には、本作では、現在のタリバン政権の恐怖は描かれているものの、ソ連侵攻は数分のみの描写であり、またアメリカのアフガニスタンの政情不安に対する責任に関しては全く触れられていない。原作は2005年に出版しており、当時のアメリカ大統領夫人ローラ・ブッシュが高く評価したことなどからも、映画化の際には、アメリカはアフガニスタンからの亡命者を助けた国としてしか描かれなかったのかもしれないが、ソ連とアメリカを中心とする外国の介入が現在のアフガニスタンの政情不安の大きな原因であることは間違いがない。
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