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召使のpikaのレビュー・感想・評価

召使(1963年製作の映画)
5.0
傑作以外の何者でもない傑作!めちゃくちゃ面白い!
召使と主人のどちらからでも見れるようにどちらにも寄せていないギリギリの視点が絶妙。
召使が歩いているところから始まるのでなんとなく召使の視点から眺めようとしてしまうけど、それを逆手に取ったかのように徐々に印象誘導していく演出の流れがサスペンスフルで面白い。階級社会という不平等なシステムをアイコンに、その表皮が剥がれてしまえば生身の人間同士が向き合うことになる、するとどうだろうかというような皮肉が効いてる。中盤で思わず笑ってしまうようなシーンを入れる緩急が非常に好みで、映画の中で様々な感情が揺さぶられるものほど楽しいことはない。

眺めているだけでも心地よいカメラと画面の面白さ。顔へのクローズアップから流れるようにダンスへと移行し、立ち居振る舞いのさり気ない仕草でフィアンセの存在と主人の社会的階級を一瞬で説明してしまうデートシークエンス。レストランではストーリーに関係のない周りの客たちの会話をメインの主人カップルと同一に扱い、どーでもよさそうな会話内容に「どーでも良い」と思うくらい自然なものとして風刺の一旦を描写してしまう。
蛇口の滴る水の音の効果、空気を切り裂く電話の音、影や鏡で行動と印象を同時に語る無駄のなさ。壁や窓に隠れた画面外の世界を敢えて見せないことで緊迫感を煽ったり、様々な演出で想像力を刺激されのめり込む。突然のクローズアップで動揺させられる衝撃。全てのショットが印象的とすら言いたくなるくらい目が離せぬ隙のなさ!
演出を楽しむ人もストーリーを楽しむ人も満足できるんじゃないかなと思うほど、一度見ただけでは味わい尽くせない多角的な魅力の詰まった面白さ。

風刺劇であるのにこの後味ってところが「差別してないって考えてること自体が差別」とおんなじ様な、人に「社会的立場」ってものを与えてること自体がおかしいと謳っているかのよう。
兄弟のように感じたのは戦争に従軍したとき以来という二人の言葉。兄弟と兄弟。
雇用主と労働側という立場関係ながらもどちらとも相手を人間扱いしていない強烈な描写が印象深い。
爽快と感じるか不快と感じるか、映画では押し付けていないところが非常に良い。どちらでしょうか、抑圧する側もメタメタにぶちのめす側もどちらもおんなじ人間です。

ダーク・ボガードの顔!全編必見の顔。
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