ひでG

飼育のひでGのレビュー・感想・評価

飼育(1961年製作の映画)
3.9
大島渚は、「愛のコリーダ」以降の「愛の亡霊」と「戦メリ」が特に有名だ。と同時に、本職よりコメンテーターや怒るオジサンとしての方が名前を知られるようになっている。

が、彼が最も輝いていたのは、1960、70年代、「松竹ヌーベルバーグ」として名を馳せた頃なのだろう。

血気盛んな頃の大島渚作品には、今まで縁遠かった。リバイバルやレンタルで観る機会も少なかったし、何となく敬遠してしまってもいた。
日本の高度成長期の軽やかさ(いろんな意味の)とは、真反対の安保闘争以後の絶望感や虚無感から帰依しているのだろうか、そんな暗部がクローズアップされ、物語全体を覆っているようなイメージを持っていた。

本作も、大江健三郎原作と言う程度の前知識しか持たずにアマプラで初鑑賞、んん💦

これだけ陰で鬱な映画も珍しい。閉鎖的なムラという集団の中での陰湿な事件。
最近、同じような雰囲気の映画を観たなあ、と思ったが、そうか、「福田村事件」か!

戦争末期の農村部、本家と分家は代々表面的な付き合いだけで、信頼し合ってはいない。
そこに、疎開してきた家族との不協和音も相まって、一体感も欠片もない。

そこに、異物が現れる。米国の黒人兵が罠にかかり、捕虜となって連れてこられるのだ。

この異物の処理?に右往左往する様は哀れで、醜い。知恵も人らしさもなく、常に他者へ依存し、他者へ責任をかふぜようとしている。

そして、最後は、(この時代からあったんがい!)日本人得意の「なかったことにして、みんなで忘れよう!」作戦だ。

これをもって、全ての日本人に当てはまるとは言わないが、このムラ自体が日本社会全体を象徴的に表しているという作者の意図は分かる。

カメラが上部から撮る俯瞰ショットをかなり多用していていることからも、単にこの村のことだけじゃないよ、って言うメッセージのように感じた。

三国連太郎はじめ、当時の役者さんのクオリティの高さがこの作品の薄寒さを支えている。

そして、最も恐ろしいのは、このお話の中に出ていた「責任のなすり付け合い」や
「みんなで忘れて、なかったことにしよう。」が80年近く経った今の政治でも行われてることだ。
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