さわだにわか

ボリシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険のさわだにわかのレビュー・感想・評価

3.8
プロパガンダ映画は時代背景を抜きにしては本当の面白さがわからないので歴史ガッカリ人間の俺にはなかなか難しい映画ではあったが、凍結した未舗装路で馬車とバイクのチェイスをやったりビルの屋上で綱渡りしてくれたりするので助かった。単純に見てたのしいシーンが多いというのはありがたいことです。

それでこれは人食いボリシェヴィキの支配する(と新聞は報じる)魔窟モスクワに乗り込んだ西側のお金持ちと護衛カウボーイが没落貴族の率いるゴロツキ窃盗団の魔手にかかってあわやというところで我らがボリシェヴィキが登場、お金持ちとカウボーイを助けてあげてボリシェヴィキがちっとも怖くないことやモスクワがいかに素晴らしいか観光案内しながら教えてあげたらお金持ちはボリシェヴィキの国は素晴らしいなぁと回心してジ・エンド、というお話。

個人的に意外だったのはアメリカ人の描写で、宣伝の狙いもあるにしてもちょっと好意的に描かれすぎじゃないかと思ってしまった。アメリカ人は素朴でダサくて無教養だがお金は持ってるし行動力はあるし勇敢だし素直だしすぐ人と打ち解けるし一途だし非ボリシェヴィキのゴロツキどもなんかとは大違いだ!

ボリシェヴィキ推しのプロパガンダなので敵はアメリカ人というよりも没落貴族と革命に背を向ける堕落したゴロツキ連中ということになるが、これもまた面白いところである意味プロパガンダ映画の常ではあるが、一芝居打ってボリシェヴィキを騙るこのゴロツキ連中の方が最後に水戸黄門ポジションで出てくる本物のボリシェヴィキよりも遙かに生き生きと魅力的にカメラに写っており…人食いボリシェヴィキの映画だけに人を食ったところがある。

怪盗的な没落貴族(かっこいい)の七変化。カウボーイ(ボリス・バルネットらしい)の軽業アクション。やたら回りくどいゴロツキ連中のアメリカ人ぼったくり作戦。このぐらいの頃だとまだ国中イケイケムードだろうからそんな肩肘張って作る必要もなかったんだろう。一応プロパガンダ映画ではあるが映画的に面白いことを追求しているうちに政治的正しさとか国の違いとかどうでもよくなってしまった感が幸せなプロパガンダ映画だった。
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