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トウキョウソナタのodyssのネタバレレビュー・内容・結末

トウキョウソナタ(2008年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

【物足りない】

家族の虚構性だとか危うさだとかを描いた映画は、これまでにいくつも作られています。黒沢清監督があえて家族映画を作るのだから、それ相応の新機軸があると期待して見たのですが、まるでとは言わないものの、少しく期待はずれの感がありました。

まず、設定が古めかしすぎる。サラリーマンの夫と専業主婦の妻と子供二人。一戸建てが鉄道のすぐ脇にあって「これじゃ、騒音がやかましいだろうなあ」と思ってしまうような危うさはありますが、そういう設定自体は月並みなものでしょう。

リストラされてしまう中年サラリーマン。うーん、こんなに簡単にクビにしていいんですかね。労組は何をやってるのだろう。いや、私の友人にも会社をリストラされたのがいますけど、それは本人が辞めざるを得ないように周囲がし向けるそうです。この映画でも、一応本人が会社を飛び出したような描き方になっているけど、その後の展開をみるとそれほど根性のある主人公には見えない。しがみついているほうが似合っていると思うな。香川さんが主人公なんだし。役所広司が主人公ならともかく。つまり、最初からリアリティがあまりない。

小泉今日子演じる妻も、なにか今ひとつリアリティに欠けています。夫のリストラを知りながら知らぬ振りをするのはいい。でも、これって家計にすぐ響いてくる問題でしょう? 最後で次男が音大付属中学を受験しますけど、受かったら学費が大変なはず。音大系の学校って、国立や公立じゃないきゃ学費がかなり高いですよ。どうするんですかね? 主婦って、そういう心配をまずするものですよ。

長男にしても、事実上プー太郎やってて、挙げ句の果てに○○になると言い出す。不思議なのは、そこで長男に今の日米関係がかなり鮮明に見えているということ。無茶なようだけど、それなりに筋は通っている。ただし、筋が通りすぎていて、どこか立派すぎる。長男って、そんなに立派な人間なのかな。むしろ、どこかの慈善団体(環境保護団体でも可)に飛び込んでいくとか、新興宗教にひっかかるとかのほうがまだしもリアリティがある。

いや、長男を描いた部分はむしろこの映画では上出来なところだと思うんですよね。つまり、今の日本が置かれている状況を、山田洋次あたりの「良心的な」反戦映画なんかよりよほどよく捉えているから。設定がすっ飛んでいる分、むしろ黒沢監督らしい。

途中で夫と妻がああいう状態になって、崩壊で終わらせるのかと思いましたけど。そのほうが黒沢監督らしいという先入観があったからです。でも実際はああいう終わり方だった。次男もどうやら才能があるらしいし、一応めでたしです。でも私は上にも書いたようにお金の心配をしてしまいました。ほんと、どうするんだろう?

いやそういう糞リアリズム的なリアリティがどうでもいいような映画だったら、私もこんなことは書きません。残念ながらそこまで吹っ切れた設定や筋書きになっていないのです。いささか物足りない所以です。
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