こたつむり

渦のこたつむりのレビュー・感想・評価

(2000年製作の映画)
3.5
死に際の魚が語る陰鬱な物語。

『灼熱の魂』『プリズナーズ』と。
傑作を作り上げているドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の初期作品ということで観賞しましたが、蜃気楼のように掴めそうで掴めない作品でした。「こういう方向性かな」なんて思うと、するっと逃げていくのですね。ある意味、とても疲れました。

ただ、創作初期特有の“濃密な作家性”が味わえる作品でもあります。

それは、
『複製された男』のように安易に迎合せず、
『プリズナーズ』のように罪について熟考し、
『灼熱の魂』のように茨の運命に天を仰ぎ、
『ボーダーライン』のように魅せるカット。

なかなかお腹いっぱいになれると思います。
しかし、クセが強くて人を選ぶのも事実。
何しろ頭を空っぽにして観る映画ではないですからね。ひとつひとつの場面に集中しないと、象徴的に差し込まれるカットや、“魚が物語について語る部分”などで振り落とされるのは必至なのです。

だから、漠然と観賞せずに。
映画に直接的な“答え”を求めなければ。

“恵まれた人生”とは何か?
人がウソをつく理由は何か?
因果応報の根源に流れる思想とは何か?
魂に刻まれた“神の存在”は真に幸せへと希求するのか?

そんな疑問が頭の中を過ぎり。
光の向こう側に答えを求める繰り返し。
それが本作のタイトルである“渦”であり、世界の真理である“螺旋構造”。

まあ、そんなわけで。
主人公が美人で官能的な場面(無修正!)もあるのに、それが背徳的に見えてしまうのが惜しいところ。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品特有の“人を寄せ付けない雰囲気”が好きな方にはお薦めです。

最後に余談として。
タイトルの『渦』は直訳なのですが、副題の『官能の悪夢』は日本オリジナル。うーん。これは…どうなのでしょうか…。ちょっとB級ポルノみたい…。
こたつむり

こたつむり