Mikiyoshi1986

タクシードライバーのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
5.0
ついに目標のレビュー1000本目に到達!

『TAXI DRIVER』こそ私が本格的に映画の世界にのめり込むきっかけとなった作品であり、
今も我がオールタイムベストに君臨し続ける傑作中の傑作!!

一般的に本作は「常軌を逸した孤独な男が巻き起こすバイオレンス映画」として、一種のピカレスクロマンのアイコンに祭り上げられているきらいがあります。
しかし実際は、主人公を介して当時のアメリカ社会の影を如実に描き出している映画でもあるのです。

ベトナム帰還兵の主人公トラヴィスは不眠症に悩まされ、深夜のNYの街を徘徊するタクシー運転手の職を得ます。
ではなぜ彼が不眠症なのかと言うと、それはベトナム戦争で経験したであろうトラウマ、所謂PTSDによって彼の心は病んでいる状態にあるということ。

当時NYは全米一の犯罪都市で治安は最悪であり、特に深夜の客を乗せるタクシー走行は常に危険と隣り合わせの仕事でした。
にも関わらず兵隊上がりのトラヴィスは不適な笑みで「Anytime Anywhere」と答え、欲望と犯罪蠢く夜のNY街へと繰り出します。

彼は劇中で「1973年5月に海兵隊を名誉除隊」と言っていますが、当時ニクソン米大統領がベトナム戦争の終結を宣言したのが1973年1月末。
つまりトラヴィスは長い泥沼化のベトナム戦争に最後まで従軍した憐れな男であり、
いざ除隊&帰郷してみるとそこには堕落しきったアメリカの病理が渦巻いていたのです。

更に命を懸けて戦ったトラヴィスを嘲笑うかのように世間では「ベトナム戦争は間違っていた」という共通認識が定着しており、
一方でこの腐敗したアメリカが既に新たな転換期を迎えていることに彼は戸惑いと強い疎外感を覚えます。
俺はアメリカをこんな状態にするために今まで戦ってきたのか…?

PTSDも相まって社会と自分とのギャップを埋めることが出来ず、都会で一人孤独を抱えながら彷徨う彼のタクシーは、さながら走る棺桶のよう。
しかもトラヴィスは偽りの自分を演じる時以外は必ず所属部隊のジャケットを着用しており、除隊しても尚彼は見えざる戦争の煉獄に囚われ続けているのです。

そんな彼もなんとか社会に順応しようと就職し、心の闇を隠しながら恋愛を突破口に「マトモ」な人間に近づこうと努力します。
しかしその欠落してしまった人格や人と友好な関係を築きにくい性質が仇となり、トラヴィスはきっぱりと"祖国"から拒絶されてしまうことに。

この失態と周囲に蔓延る悪の重圧により、拠り所を失った彼は次第に妄想の深い闇へと足を踏み入れてゆきます。
それは謂わば騎士道精神に則った狂人ドン・キホーテのようでもあり、
自身の正義に則ってこの堕落した社会を一掃し、自分が帰るべき真のアメリカを取り戻そうとする妄想の世界。

彼が腕立て伏せをするシーンでは一瞬ですが背中に生々しい傷痕が映り、
彼が心身共に受けた戦争の痛みは大きな怪物となってアメリカ社会に報復を仕掛けるのです。

彼は決起の際にモヒカン頭にしますが、それは元々アメリカ兵が決死の任務に携わる時に行った流行儀式。
もはや「津山事件」都井睦雄さながらの戦闘状態です。

そしてやはり重要なのは、そんな狂人の彼が世間からは英雄に祭り上げられてしまうという皮肉に尽きる点。
これぞ歪んだアメリカ社会の実像を巧みに描き出しており、ベトナム戦争という負の遺産を葬り去ろうとも、それは狂気と化して今も国中を闊歩してるのだと。

スコセッシ監督はカミュ『異邦人』やドストエフスキー『罪と罰』、三島由紀夫『金閣寺』と同様の「孤独から派生する狂気」に着目し、"アウトサイダー"の見地を見事素晴らしい映像に興してみせました。
この普遍的テーマは純文学にも通じ、我々は少なからず主人公トラヴィスに自分自身を見つけることができるのです。

一方で脚本を手掛けたポール・シュレイダーは更に反戦要素を強めたベトナム帰還兵作品『ローリング・サンダー』を翌年に手掛けます。

またデ・ニーロもその後『ディア・ハンター』で再びベトナム戦争に翻弄される帰還兵を演じています。

本作にはスコセッシが敬愛するヒッチコックからの影響が散りばめられており、音楽もヒッチコック作品を多く手掛けたバーナード・ハーマンが担当。
奇しくも本作がハーマンの遺作となったわけですが、このムーディーなスコアを耳にする度に70年代のNYの夜光、ミラー越しのトラヴィスの視線が浮かび上がってくるのです。

filmarksを始めて約5年、1000本の節目を迎えられたのはひとえにここで出会ったユーザー様のお陰!
本当にありがとうございます!

そして大変私事ではありますが、この度filmarks運営様からお声をかけていただき、FILMAGAの映画ライターとして記事を執筆させていただく運びと相成りました。
そんなの私に務まるのか不安しかありませんが、映画愛だけは絶やさず邁進してゆく所存ですので、今後とも何卒よろしくお願いいたします!
Mikiyoshi1986

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