現在アメリカと対峙する超大国となった某国を悪く描きすぎたため、公の場やテレビでは中々取り上げられなくなったという曰く付きの反共産主義映画(この映画のDVDの発売が何故か延期になったのもそうした事情が絡んでいるという噂が)。同時にこの映画が製作された1954年当時、「赤狩り」と呼ばれる共産主義者を弾劾する空気がアメリカに残っていたことを伝える貴重な資料となっている。
話は原子爆弾を作っている共産主義国家の計画を調査するため、元士官で潜水艦の経験を買われ雇われた主人公(リチャード・ウィドマーク)を艦長とする部隊と科学者とその女性秘書が潜水艦で目的地に潜入し陰謀を阻止する…という典型的な反共プロパガンダな内容。それでも監督のサミュエル・フラーによる緩急をつけたメリハリのある演出や見ごたえのある潜水艦の特撮によってそうした政治事情を抜きにしても楽しめる佳作に仕上げている。あと主人公を共産主義を嫌う人間ではなく、物事を常に冷静に観察するキャラにすることで宣伝臭を抑えている。
リチャード・ウィドマークが、冷静沈着で様々なトラブルをクールに解決する主人公の艦長を好演。また普段は感情を表に出さないが、時折覗かせる笑顔が素敵で女性秘書のヒロインならずとも惹かれてしまう。
中盤敵の潜水艦に尾行されてからの、主人公たちが乗る潜水艦が海底に降りて身を潜め敵を撒こうとする場面のサスペンスに息を呑む。艦内の酸素が徐々に低下し、乗員たちが精神的にも肉体的にも追い込まれていく様が丁寧に描かれているので更に緊迫感が増していく。
後半、敵の基地から発進される飛行機の特撮も素晴らしく本当に飛行機が空を飛んでいるかのような迫力があり映画を大いに盛り上げる。
全体的には娯楽映画スタイルの作風ではあるが、海中に潜った潜水艦の蓋を閉めようとして指を挟んだ博士を救出せんと指をナイフで切ったり、ラストの展開など随所にフラーらしいショッキングな演出があり後年の作風の片鱗を感じさせる。
ちなみにあるサイトの考察を読むと、フラー監督は男性のみの場所である女性が潜水艦に入るシチュエーションが撮りたくてこの作品を引き受けたのではという仮説が。思い返すと確かにそうした女性が男性のみの世界にいる異化効果を丁寧に撮影していた印象はあるけど。そしてこのシチュエーションは『潜水艦イ_57降伏せず』や『ローレライ』に引き継がれることに。