櫻イミト

皆殺しの天使の櫻イミトのレビュー・感想・評価

皆殺しの天使(1962年製作の映画)
2.5
ブルジョア社会の同調圧力を揶揄してるのかと思ったがどうも違う。
スペイン原題も「皆殺しの天使」。では天使とは誰を指すのか?普通に考えたら今作の主演はシルビア・ピナルとクレジットされているから彼女が演じる’鉄の処女’ワルキューレが答えとなる(ワルキューレとは戦死者を選ぶ女神)。しかし劇中では皆殺しなどしていないし何故そんな物騒なタイトルを付けたのか?そこにはブニュエル監督から観客へのメッセージが込められていると思われる。この映画は暗喩なのだと。
物語は、夜会の後になぜか部屋から出る決断ができなくなってしまった人々の数日間の様子を追うもの。断水しても病人が死んでもなぜか部屋から出られず疲労困ぱいし罵りあいの末に自殺者まで出てしまう。外では軍隊まで出て様子を見守るが誰も入ろうとはしない。延々と密室でのグダグダが描かれるので退屈になってくるが、邸内に熊や小羊が出てきたりと油断できない。そして終盤、ワルキューレがある思い付きをし解決に向かうかに見えたのだが・・・。
ブニュエル監督はこの映画について「これは船が難破する前に本能的にそれを察知し、しかし去ることは不可能になるネズミの話だと思って見てもらっていい」とこれまた暗喩で語っている。
この映画の暗喩とは何か?「皆殺し」「ワルキューレ」「鉄の処女(拷問器具)」「密室」・・・「小羊」とはユダヤ人とキリストの象徴であり、「熊」はドイツ・ベルリンのシンボル・・・ホロコースト?
だとしたら、過ちを起こし防げなかった人間の愚かさを表わしているのか?まだまだ考察が必要だ。
櫻イミト

櫻イミト