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皆殺しの天使のkaomatsuのレビュー・感想・評価

皆殺しの天使(1962年製作の映画)
4.0
「帰りたいから帰る」という簡単なことができない、ある上流階級の人々を描いた、空前絶後の不条理群集劇。個人的には、ルイス・ブニュエルの監督作品中、最も意味不明な怪作。不条理なくせに、ブニュエルの意図とは別に「それ、ありうるかも」と思わせてしまうところが、この作品のどうしようもない魅力だったりする。

オペラ鑑賞を終え、ある晩餐会に招かれた大勢のブルジョワ階級らしき人々が、夜遅くなっても、誰一人帰ろうとしない。みなそれぞれに帰らなければならない理由があるのだが、なぜか帰らない。次第に食事も飲み物も尽き、深夜になっても、夜が明けて数日たっても誰も帰らず、次第に自己中心的になり、野生化・狂暴化していくブルジョワ集団。別に監禁されているわけでもない。「帰りたいから帰る」という単純な行動意欲が完全喪失することで起こるカオス。果たして、その結末は…?

「帰りたいから帰る」ことができない集団の、妙な安心感と不安。そして、そのループから抜け出せないトラウマ。これはまさに、大して仕事もないのに会社で大勢の社員が、誰も帰ろうとしないで残業している状況とソックリ。そんな「あるかも」と思えてしまうところが、この作品の笑えない怖さだが、日常との類似性というもっともらしい考察など、もはや無意味。道徳や慣習、カトリシズムに加えて、取り澄ましたブルジョワ貴族の化けの皮をもひっぺ返すことが大好きなルイス・ブニュエルの、上流階級への個人的な逆襲というか、悪趣味ワールドを存分に楽しむのみ。
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