もっちゃん

打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?のもっちゃんのレビュー・感想・評価

3.8
岩井俊二が邦画界に進出するきっかけを作った作品。ドラマ出身作品ということだけあって一時間足らずという制限の中でコンパクトに要所を汲んでいる。

思春期の真っただ中の小学生たちの、夏休みの淡い恋心を描く。本当に子ども然としている男子の中でひときわ異彩を放つ奥菜恵み演じるなずなは両親の離婚という複雑な境遇からか、妙に大人びてエロスすら感じる。こんな小学生いたら大騒ぎである。

なずなはこの狭い世界(親から束縛)から逃げようとしている。そんなミステリアスな彼女に典道は魅了され、彼女と駆け落ち(未遂)してしまう。ひと夏の淡い逃避行。
そしてそれらを岩井俊二独特の光を基調とした画面設計によって演出する。夏の優しい日差し、白が跳ねるぼやけた画面、そこに挿入されるブルー(プール、青空)が見事に映える。普遍的な恋愛青春映画のプロットを岩井俊二が撮るだけで彼色に染まってしまうからすごい。

「打ち上げ花火は横から見るとどう見えるんだろう?」という小学生らしい素朴な疑問は大人だって答えかねる難しいものである。「下から見るか、横から見るか」という”or”の問いかけをなす題名は本作(ドラマ版『if もしも』を含む)のテーマである「アナザーストーリー」を示唆するものになっている。

典道と祐介のプールでの勝負がなずなとの駆け落ちの権利を得る分岐点となっているわけだが、ここで二人のアナザーストーリーが紡がれる。「打ち上げ花火」とはなずなのことを表し、それを下から見るということは傍観者として、つまり敗者としてなずなを手放すことを指すわけである。そして横から見るとは言うまでもなく、勝者としてなずなと一緒に駆け落ちをすることを指す。

ただし、劇中で明示されていないように花火が下から見る場合と横から見る場合でどちらがきれいに見えるかはわからない。もしかしたら横から見た場合、花火は形を成していない不細工なものになるかもしれない。彼らのアナザーストーリーのどちらが正しいとも言えないし、本当のところどちらが勝者なのかもわからないのだ。