こなつ

過去のない男のこなつのレビュー・感想・評価

過去のない男(2002年製作の映画)
3.8
フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキ監督の「敗者三部作」。「浮き雲」に続いて「過去のない男」を鑑賞。

怪我で記憶を失った男が見知らぬ町で新しい生き方を見つけていく物語。

ヘルシンキのある駅に降り立った男(マルック・ペルトラ)が3人組の暴漢に突然襲われ、大怪我をしてしまう。命は取り留めたものの病院を抜け出し、河原で倒れていたところを親切な家族に助けられる。男には過去の記憶が全くなく自分の名前すらわからなかった。

男を助けた家族は、町外れのコンテナに住む見るからに貧しい家庭で、日々の生活にも困るような人達なのになんの迷いもなく男の世話をすることに驚く。「住む家があって仕事があるだけで幸せ」という妻の言葉。夫は週2回の警備員の仕事なのに、本当に幸せそうに話すのだ。世界幸福度ランキング1位のフィンランドの人達は、もしかしたら私達が考えているものとは幸福の形が違うのではないだろうか、、、

周りの人達がみんな親切でそんな人々に助けられて徐々に環境に馴染んでいく主人公。やがて救世軍のイルマ(カティ・オウティネン)に出会い惹かれ合う。そんな折、銀行強盗に遭遇したことから彼の身元が判明する。

マルック・ペルトラは、「浮き雲」にも出演していたが、「かもめ食堂」の印象が強い。今回も味のある主人公を魅力的に演じているが、2007年に病気で亡くなられているのが残念だ。相変わらず、無表情なカティ・オウティネンだが遅咲きの恋に揺れる女心が何とも可愛いかった。また監督の愛犬だという犬の名演技が微笑ましく、カンヌでパルムドッグ賞を獲得した名犬。

「敗者三部作」とは監督が付けたのだろうか?「浮き雲」と「過去のない男」の主人公達は、運がなく辛い目にあっていても決して敗者には見えない。敗者というと人生に諦めてしまった人達ではないかと思えるが、少なくとも私が観た2作は、前を向いて進もうとしている主人公達が真摯に描かれている。アキ・カウリスマキ監督が、くじけそうな人達への応援歌を紡いでいるように思えた。
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