櫻イミト

男の争いの櫻イミトのレビュー・感想・評価

男の争い(1955年製作の映画)
4.0
同年公開の「現金に手を出すな」(1954)と並び称されるフレンチ・フィルム・ノワールの先駆的傑作。監督は「裸の町」(1948)のジュールス・ダッシンで本作では出演も兼ねている。カンヌ映画祭監督賞受賞。原題「DU RIFIFI CHEZ LES HOMMES」は直訳すると「男の激闘」。

五年ぶりで出所したトニイ(ジャン・セルヴェ)に一旗挙げさせようと旧友のジョウが宝石強奪計画に誘う。トニイは躊躇するが、妻のマドーが悪党ピエールの情婦になったことを知り肚を決める。ジョウの仲間マリオ、ミラノから来た金庫破りの名人セザール(ジュールス・ダッシン)との4人組でいよいよ計画を決行するのだが。。。

お世話になっているレビュアーさんから教えてもらい鑑賞。抜群に好みで面白かった。大感謝です!

「現金に手を出すな」と同じくケイパー(強盗)映画で、同ジャンルの始祖「アスファルト・ジャングル」(1950)と大まかなプロットは似ている。なのだが、映像、演出、テーマとも別物の魅力にあふれていた。比べるとアメリカとフランスの違いが良くわかって興味深い。

まずはパリの町を縦横無尽に使ったロケーション撮影がたまらない。ダッシン監督は「裸の町」でも街ロケを試みていたが本作ではそのこだわりが結実し、ハイライト強めのモノクロで切り取られた街頭はこの上なくクール。この舞台でフレンチ・フィルム・ノワールならではの任侠ドラマが展開する。強盗計画の成功には警報装置の反応防止のため“音を立ててはならない”という条件があり、実行中の30分間はセリフなしというケイパー映画としては画期的な演出が為されている。

そして最大の見どころはクライマックスだ。大空に飛びゆく風船を号砲に決死のスタートを切る車。隣に乗せた無邪気な子供が、ひたすら爆走するトニイの情念を際立たせる。その姿は、赤狩りでアメリカを追われ、フランスで詩的リアリズムに立ち返ったダッシン監督自身の生き様に重なって見える。このウェットなセンチメンタリズムは好みがわかれる所かもしれないが、個人的には最高の名場面となった。侮りがたしダッシン監督!他作品もチェックしていきたい。

石井輝男監督がフレンチ・ノワール「殺られる」(1959)の影響で「黒線地帯」(1960)を制作したことは知られているが、本作を観てあらためて日本のヤクザ映画監督たちはアメリカよりもフランスのフィルム・ノワールの影響が大きいとを感じた。本作の主役トニイの苦渋に満ちた姿は石井組の天知茂を思わせるし、高倉健は「現金に手を出すな」のジャン・ギャバンを演技の参考にしたそうだ。東映ヤクザ路線上がりの佐藤純彌監督「新幹線大爆破」(1975)の基本プロットは犯行仲間の友情と敗北を描くもので、本作と同じと言って良い。自分は既に東映ヤクザ路線を通して、フレンチ・フィルム・ノワールの魅力に慣れ親しんでいたのかもしれない。
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