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殿方は嘘つきのKengoTerazonoのレビュー・感想・評価

殿方は嘘つき(1932年製作の映画)
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自動車を間に挟んで雇う/雇われるの関係性を上手く描いている。男女の駆け引きが女の仕事場の往路と復路で繰り広げられていて、さながらカーチェイスをみているみたいだった。

長回しも効果的だった。女が食堂の息子に家まで送ってもらったシークェンスでは、家の前で息子が女に喋りかけ、女は早く帰りたいのに帰れない。キャメラが右にパンすると女の父親が、家に向かっている。父親の歩行に合わせてふたたび家の方へパンするとき、とてもハラハラした。

冒頭の「眠り姫」の件が中盤にはサスペンスへと変貌するところも、流石だと感じた。同じセリフを同じ状況で言っていても、観客の置かれているシチュエーションによって感じ方がまるきり変わる。冒頭なぜあんなにも長々と父親の仕事終わりを描写したのかがここでわかる。

シークエンスとシークェンスの繋ぎ方が上手い。類似するモチーフをオーヴァーラップして重ねている。特に女が店で撒いていたパフュームの霧吹きが、デ・シーカの車整備用の霧吹きへと繋がったところはよかった。

都会の街並みはもちろん、池や車道からみえる移り変わる風景など、ロケーション撮影でしか味わえない魅力に貫かれていた。車のスピード感をあらわすフラッシュバックは緊張感あってよかった。ドライヤーの交通安全のための短編映画に似たようなシークェンスがあるのを思い出した。絶対事故るわ、あんなん。
デ・シーカはこういう作品への主演を経て、ロケーション撮影をしたのかなと思った。
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