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大室家 dear sistersのKengoTerazonoのレビュー・感想・評価

大室家 dear sisters(2024年製作の映画)
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まず、音響が酷い。劇伴と声とヴォイス・オーバーのバランスがめちゃくちゃだった。テレビの規格で調整していたのかしらないが、聴くに耐えない音響だった。音のバランスが作品の全体性に適ったものである必要は必ずしもないが、作り手が作品の全体性を維持しているつもりでいる以上、全体性の不一致は単に見苦しいものにしかならないだろう。

そしてエフェクトが過剰である。『ゆるゆり』のフランチャイズ作品である『大室家』は前者がそうであるようにキャラクター消費的な作品で、いわゆる日常系に位置する。日常系アニメは「ストーリーがない」などと言われ、ある種軽蔑されているジャンルだが(いわゆる日常系アニメを褒める際「日常系なのにストーリーが深い!」などと言われることが、その証左だろう)、動画工房の『ゆるゆり』は日常系が軽蔑される根拠(例えば歳を取らないキャラクター)を茶化していた。キャラクター消費的な状況が延々と躊躇いもなく繰り広げられる日常系の空間に少なからず自覚的だっただろう。だが、動画工房の手を離れたとたん、日常系が繰り広げる好きなキャラの親密な空間に溺れてしまった。『大室家』はその延長線上にあり、その傾向に拍車をかけている。キャラクター消費に無自覚な状況が、過剰なエフェクトというスタイルに滲み出ている。光が乱反射して、全体的にキラキラしてて眩しい。エフェクトが日常を輝かせるためのガジェットになっている。このような「かけがえのない日常」をミニュアチュール的な全体性のなか繰り広げられるときつい部分があるが、私はその中にいる人間なので(原作を全部読んでいる)、「こころかわいい〜」、「さくひま尊い〜」と楽しんでしまっている面もあった。

オープニングは秀逸だった。アニメのキャラクター(櫻子とひまわり)を実写の背景に重ねた映像は、長回しでキャラクターたちの下校を追っている。キャメラワークはハイポジションハイアングルが多く、3次元空間を自在に動いている(櫻子とひまわりを多角的にひとつのショットで映している)一方、おそらくフレームレートはアニメ的な3コマ打ちに近いのではないか。そして超広角である。実写映像としては違和感極まりない画だが、アニメのキャラクターと一緒だと馴染む。アニメの超写実的な背景が実は平板な広角で、写実的なのに非リアルなものであることがよくわかるし、オープニング終了直後のショットにおける絵の背景とシークェンシャルに繋がるのが、実写だとおかしな超広角な画もアニメだと違和感なく馴染むことを示唆している。
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