こなつ

スモークのこなつのレビュー・感想・評価

スモーク(1995年製作の映画)
4.0
現代アメリカを代表する作家ポール・オースターの短編小説「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」を基に「女が眠る時」の香港出身ウェイン・ワン監督が映画化。

以前雑誌で読んで気になっていた作品。たった1館で9万人も動員した大ヒット作品は、2016年のアメリカ・日本・ドイツの合作で、第45回ベルリン国際映画祭審査員特別賞を受賞。不朽の都会ドラマだった。

舞台は、1990年のブルックリン。毎朝同じ時間同じ場所で14年間写真を撮り続けているブリックリンの街角の小さな煙草屋のオーナー・オーギー(ハーヴィー・カイテル)、7年前銀行強盗に妊娠中の妻を殺害され書けなくなった小説家・ポール(ウィリアム・ハート)、12年前事故で母親を失い、父親も失踪してしまった17歳の少年トーマス(ハロルド・ペリノー・ジュニア)、その3人の出会いから下町に暮らす男女のそれぞれの嘘と真実、過去と現在が絡み合っていく。ユーモアと人情味に溢れた感動のドラマだった。

日本でも電車や映画館、劇場で当たり前の様に煙草を吸えていた時期があったというのが信じられない現在、嫌煙家達が卒倒しそうな煙草屋の光景からこの物語は始まる。騙したり騙されたりを繰り返し、煙に巻かれながら人は皆、世の中を渡っているのかもしれない。煙草の煙のようなもの、嘘か真実か、罪か善意か、、そんなあやふやさも人生には時には必要で、心の持ち方で私達の道もまた形成されていく。優しさがスクリーンから滲み出ている物語だった。ハーヴィー・カイテルとウィリアム・ハートのちょっと渋くて味のある好演が胸を熱くする。

ブルックリンの街並みを静かに縫うように走る列車の映像があまりに美しくて、息を呑む。季節を映す街を列車がただ静かにいつもの様に走り、時が流れて行く。人々の人生のように走り去っていく。

オーギーから聞いた彼のクリスマスの思い出の話をポールはNYタイムスに投稿した。その話がラストに映像で流れ、あのモノクロのジャケ写の意味を知る。いつまでも余韻となって心に残り温かな気持ちになった。私はやはりこういう作品に弱い。心が持って行かれそうになる。クリスマス近くなったら、もう一度観よう。
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