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ダークナイトのtanayukiのレビュー・感想・評価

ダークナイト(2008年製作の映画)
4.8
前作では試行錯誤のあとはうかがえるもののヒーロー物の殻を打ち破れなかったクリストファー・ノーランが満を持して送り出した本作は、ジョーカーという希代のトリックスターの存在を得て完全に突き抜け、新たな地平を切り開いた。

ヒース・レジャーのジョーカーが高笑いを浮かべながら軽やかに舞う。ハンディカメラで自ら撮影したという殺害予告ビデオでは、画面から自由にはみ出し、天地左右バラバラの角度で切り取られたジョーカーのはしゃぎぶりが、只者じゃない感を強烈に印象づける。ハービー・デントのトゥーフェイス(表と裏の二面性)の造形もいい。

ホワイトナイトとダークナイト。表通りを歩む顔の見えるヒーローと裏街道をひっそりとゆく覆面男。ハービー・デントはバットマンを庇い「自分がバットマンだ」と宣言して身柄を拘束され、自分を餌にジョーカーを誘き寄せたが、バットマンは悪人に堕ちたハービーに代わって罪を被ることでジョーカーの目論見を挫き、ゴッサムシティの秩序を守った。

ジョーカーはハービー・デントからホワイトさの仮面を剥ぎ取り、隠れた本性を炙り出すことには成功したが、フェリーに乗った人たちの表の顔を剥ぎ取ったら、その下には良心が隠されていることまでは思い至らなかった。一方、ジョーカーに「病院を爆破されたくなければ60分以内にリースを殺せ」と命じられた一部の市民は、隠れた本性を露わにしてリースに襲いかかる。彼らを分けたのは、死ぬ人の数の違いか(フェリーに乗った市民と別のフェリーに乗った囚人、リース1人とどこかわからぬ病院内にいる人)、それとも、自分が死ぬよりも身内が理不尽に殺されるほうが耐えられないのか。同じ人でも状況によって善人にもなれば悪人にもなる。ハービーでなくても二面性は誰もが持っている。

ジョーカーはバットマンのマスクを剥ぎ取り、正体を明かすことに執念を燃やすふりをしつつも、じつはそんなことにはたいして興味はなく、2人でずっと遊び続けたいだけだった。ジョーカーいわく、

「お前は決して悪いことはしない。そうだよな?え?お前は俺を殺さない。なんたって、独りよがりでもって、くだらない正義感があるからな。そして俺もお前を殺さない。お前は殺すにはおもしろすぎる。きっとお前と俺は永遠に戦う宿命なんだ」

マスクで正体を隠すバットマンと、口裂け化粧で道化を演じるジョーカーは、じつは似たもの同士なのかもしれない。

冒頭の銀行強盗のシーンはまさに「つかみはオッケー」で、ここだけ切り出しても見応えがある。これが「TENET」のオープニングにつながったと思うと胸が熱くなる。極力CGを使わないノーランは、仮設の病院も本当に爆破してしまうわけだが、あの爆風の中を後ろを振り返ることもたじろぐこともなく平然と歩き続けたヒース・レジャー、マジでイカれてるよね。

△2021/06/21 Apple TVで7回目鑑賞。スコア4.8
△2018/04/20 iTunes登録。スコア4.6
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