tanayuki

ロブスターのtanayukiのレビュー・感想・評価

ロブスター(2015年製作の映画)
4.1
おひとり様天国の日本ではいまいち想像しにくいところはあるけれど、欧米の作品を見ていると、パーティーに参加するときも、レストランでディナーをとるときも、つねにカップルであることが前提で、異性愛か同性愛かという以上に、独り身でいるほうが肩身が狭く、周囲から奇異な目で見られて浮いてしまうシーンに出くわすことがある。そんなカップル至上主義の欧米文化の同調圧力を社会制度やプロパガンダのレベルにまで高め、その異様さ、理不尽さを揶揄した作品じゃないかと思ったのだけど、どうだろうか。

妻や夫と死別したり、離婚したりして独り身になった人は強制的に施設に送られ、45日以内に次のパートナーを見つけなければ、動物に変身(!?)させられる、ただし、隠れて森に住む独身者を1人殺すごとに1日の猶予が与えられるという、文字にして読むとこれ以上ないほどへんてこりんな設定なのだけど、映画の中では、それに対するツッコミも笑いも皆無で、ただ淡々と、いやむしろ歴史絵巻のような重厚さで、有無を言わさず物語世界へと没入することを強いられる。このあたりの強引さは『Poor Things(哀れなるものたち)』と同じで、ヨルゴス・ランティモス監督作品を見るときの、ある種の快楽でもあると思うのだけど、この作品は、そんな私の一方的な思いなどは軽く飛び越えて、奇妙キテレツな話のオンパレードで、こちらの期待を次々と裏切っていく。もちろん、いい意味で。

施設に収容された男性陣には、恋人がほしくなるように仕向けるためのメイドのご奉仕サービスがあるというのもエロすぎて笑うが、イカせてはもらえず寸止めされたり、自慰行為も禁じられ、違反者には厳しい罰則があるというのも、なかなかにおかしい。カップルになった2人には、相性を確かめ合うためのお試し期間が設けられているのはわかるにしても、まだ出会って数週間しかたってないはずのカップルに、10歳はこえていそうな娘がいきなりできていたり、パートナー選びの基準も、見た目とか年収とかセックスの相性とかではなく、どうやら「似たような病気、症状、悩みを抱えた人同士でなければならない」という、同調どころか同期して一体化することまで視野に入っていそうな点が重視されていることも、極限まで高められた同調圧力の異様さを浮き彫りにしている気がして気味が悪い。

犬になった兄(!)を殺された主人公のデヴィッド(コリン・ファレル)は施設に嫌気がさして脱出し、世の中のルールから外れた世界で生きる独身者集団に身を投じる。独り身のきやすさで、さぞかし自由を満喫できるのかと思ったら、なんのことはない、こちらも「独り身でいること」を仲間に強いる、別の同調圧力が渦巻く世界だった。おいおい、これじゃ、どっちもどっちだぜ?

デヴィッドは恋愛禁止の禁を犯して、近視の女(レイチェル・ワイズ)と恋仲になってしまう。その事実を知った独身者のリーダー(レア・セドゥ)は、施設のマネージャーさながらの冷酷さで、近視の女に罰を与える。マジでどいつもこいつもクソだなと観客が憤りを感じるところだが、その観客の思いを代弁するかのように、デヴィッドはリーダーに復讐を果たし、近視の女と2人でグループを脱退する。

ああ、よかったよかった、と言いたいところだが、そうは問屋が卸さないのが、いかにもヨルゴス・ランティモス監督らしい悪だくみで、ラストは見てのお楽しみ。私の感想は「デヴィッド、おまえもか」でした😎

みんな放っといてあげようよ、独り身だって恋人がいたって、どっちだっていいじゃんね。多様性バンザイ!

△2024/05/14 U−NEXT鑑賞。スコア4.1
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