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ダークナイトのtakのレビュー・感想・評価

ダークナイト(2008年製作の映画)
4.2
 僕ら世代に映画の「バットマン」といえば、やっぱりティム・バートン監督の2作品。 ド派手な印象こそあれど、異形なるものに対する愛が貫かれた秀作だった。何でもこなす職人監督ジョエル・シュマッカーが手がけるようになってさらに派手な娯楽映画に様変わり。凝ったつくりのサスペンス映画を撮る英国人クリストファー・ノーラン監督が「バットマンビギンズ」を手がけるとは聞いていたが、正直興味も今ひとつわかなかった。・・・ところが本作「ダークナイト」には驚かされた。ハリウッドエンターテイメントらしい派手な劇伴もなけりゃ、主人公の颯爽とした活躍もない。そこには善と悪との狭間で葛藤する人間たちのリアルな姿が描かれる。・・・深い。・・・そしてシリアス。何て完成度の高い映画なんだ。

 ゴッサムシティでは、ジョーカーと名乗る悪党が凶悪事件を次々と起こしていた。そこに新たに赴任してきたのが悪と戦うデント検事。彼は主人公ブルース・ウェインの元カノであるレイチェルとも愛し合うようになっていた。警察や検事局もバットマンと協力して事件に立ち向かっていたが、ジョーカーはその関係を断ち切るような策略を実行に移す・・・。

 人間の行動が善なのか悪なのかって実は紙一重で、窮地に陥ることでみるみる揺らいでくる。あれ程ゴッサムシティを守る存在とされていたバットマンだが、ジョーカーに「マスクをとって素顔をさらさないと連続殺人を続ける」と市を脅かしたことから、次第に市民に敵視されるようになってくる。ついにバットマンの装備を手がけていることを知った者が、フォックス氏(モーガン・フリーマン、貫禄です)を脅す行動に出始める。ヒーローであるはずのバットマンが葛藤する場面は、ただでさえ暗いクリスチャン・ベールの表情がますます硬く、暗くなる。フェリーを爆破するか否か市民が追い詰められる場面は、人間のエゴが描かれて胸が痛む場面だった。

 そうした市民や主人公たち善なる人々を揺るがせていくジョーカーの圧倒的な存在感。ジャック・ニコルソンも誰にも真似できない存在感を示していたが、故ヒース・レジャー演ずるジョーカーの狂気。はがれ落ちた道化の化粧は、彼の崩れ去った人間性の象徴なのか、痛々しさまで感じてくるようだ。そしてトゥー・フェイス誕生の物語が挿入される。そこでも貫かれているのは善と悪だ。怒りという感情が人間の善悪を食いつぶしていく様が、また痛い。バットマンが汚名を着てでも陰なる守護者に徹しようとするラストがまた切ない。

ポスターのデザインは、9・11を思い出させる。以前に「スーパーマン・リターンズ」を観たとき、ニューヨークに危険が迫る場面を単純に「スリルだ」と楽しめなかった。あの事件はアメコミの映画化作品から、何事にも屈しない力強い英雄像を失わせてしまった。それはこの「バットマン」も然りなのだ。そう思うと、さらに切なくなる。アクション映画でここまで考えさせられること・・・まずないだろう。見事な力作だ。
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