TakahisaHarada

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドのTakahisaHaradaのレビュー・感想・評価

3.6
20世紀始め、石油を掘り当て山師として成功した男の約30年。事業の成功と引き換えに孤独になっていく様子が描かれていて、幻滅寄りの話。158分と長いので、掘削の描写に引き込まれる序盤は良いけど、中盤以降、話が平坦で退屈になってしまう時間帯もあった。

ダニエルは本当の思いがなかなか掴みづらい人物。同じく成功者の孤独を描いた作品として連想される「市民ケーン」のように、両親に愛された幸せな記憶とか、抱えていた欲望は描かれない。
何が彼を突き動かしていたのか、明確な答えはないけれど、作中で言っていた負けん気の強さとか、あれだけイーライを目の敵にしていたことから実業に対する強い信念もあったのかなと思う。

頑固で他人の意見を聞かず、衝突してばかりのダニエルに共感できる部分はあまり多くなかったけど、イーライに対する嫉妬、ヘンリーに対する信頼には共感できた。
ダニエルにとって式典での協力依頼を軽く無視する程度の存在だったイーライが、初めて教会を訪れて以降無視できない存在になっていったように感じた。ただのホラ吹き野郎なら特に気にならないけど、そのホラ吹き野郎が周囲の支持を集めていると分かると無視できなくなる感覚。
ヘンリーに対する信頼の方は拠り所欲しさからガードが緩くなり心を許してしまう感覚。H・Wが聴覚を失い、拠り所がなくなったダニエルの中で、用心深さよりも弟だと自称する男を信じて拠り所を得たい気持ちが上回ってしまったように思えた。

話が進むにつれて、ダニエルが「人を傷付け孤独に陥る今の自分は本意ではない」と心のどこかで思っている、ということが伝わってくるのでけっこう切なくなる。
ヘンリーに対する信頼はその1つの例だと思うし、終盤、訪ねてきたH・Wを追い出した後に挿入される回想シーンは、これまでそんな演出なかっただけに「あの頃とはもう何もかも違う」感があって辛い。

ラスト、ボウリング部屋でのシーンはダニエル、イーライどちらも迫真ですごい。ダニエルの方はヒトラーのスピーチを聞いたときのような感覚。そして何より「I drink your milk-shake」実話が元ネタというのが驚き。他にもレストランでダニエルがナプキンを被って喋るシーンは絵面が強烈で印象に残った。
ポール、イーライが双子という設定は、そもそも2人いると認識してなかったのでラストで混乱した。監督がポール・ダノの役柄を即席で変更した結果、双子設定になったらしい。
ダニエルとH・Wのシーンでワンカット長回しが多く使われてた気がして(ガス噴出後のH・W救出シーン、H・Wが家庭教師と一緒に帰ってくるシーンとか)、何か意図があったのかな?と思った。