純

ボビー・フィッシャーを探しての純のレビュー・感想・評価

3.5
どうして、チェスというゲームにはこんなにも魅力が詰まっているんだろう。あの白と黒で分けられた空間と、それぞれの駒の勇敢さ、孤高さ。どれをとってもため息が出るくらい魅力的だ。チェスというと愛読書である小川洋子さんの『猫を抱いて象と泳ぐ』が頭をよぎるんだけど、チェスと天才少年、というもはやお決まりの設定もなぜか飽き飽きしないで鑑賞できてしまった。

チェスの天才、ボビー・フィッシャーの再来かと言われるほどの才能を開花させた幼いジョシュ。彼はたちまち子どもチェス界のチャンピオンとして降臨するわけだけど、彼は勝つことが好きなのではなく、チェスをすることが好きな少年だった。子どもの才能を喜ばしく思うのは親として当然のことだけども、父を始めとする周りの熱狂、執着に、ジョシュは自分がチェスをする意味を見失ってしまう。師のスパルタっぷり、あまりに冷たい態度も彼にとっては悲しかっただろう(スパルタな師といえば『セッション』を超えるものはないかもしれないけど)。それでも、彼はチェスにもう1度向き合う。目が覚めた父が掛けたやめてもいいんだよ、という言葉にジョシュははっきりとチェスをする意志を伝える。理由を問い詰めた父に言った“Because I have to.”の重みは子どもが何を、と邪険に扱えない真剣さがあった。

私としては最後の決勝戦での試合展開が良いなと思った。自分とチェスのルーツも大切にした、言うなればふたりの師の背中を追って、2人を信じて、その上で自分の力を合わせて、3人で臨んだ決勝戦だった。最後に見せるジョシュという優しい少年の心も良い。“Because I have to.”は勝ちにこだわる選手にジョシュが変わってしまったから放った言葉ではなかったんだな、と安堵する。

観やすくて、可愛らしくて、でも真剣で心温まる作品だった。綺麗にまとまっていて、万人が楽しめる作品だと思う。チェスの魅せ方が良くて、あのスピード感たまらないなあ、とずっとどきどきわくわくしながら観ることができた。
純