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真昼の決闘のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

真昼の決闘(1952年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

私はこういう名画を観るたびに悔しくて仕方がなくなる。だって、こんなに面白い映画を作られたんじゃ、現代を生きる自分ら映画人の立場がないじゃないか。こんな作品を観せられたあとに、自分は何を作るべきなのか、全く頭を抱えてしまう。

本作は5年前に絞首刑の判決が下ったはずのギャングが釈放され、街に戻ってくる知らせが町に届いてから、決闘が終わるまでを描いたリアルタイム・ムービーだ。スクリーンの中の時間と現実を流れる時間が同じであるために、観客の間に生まれる緊張感には凄まじいものがある。さらにそれを盛り上げるキレッキレのシナリオと音楽。必要にして充分の全く無駄のない仕上がりには本当に惚れ惚れしてしまう。

その上、本作には製作された当時のアメリカに対する批判が隠されているというのだから驚きだ。共産党員を徹底的に排除しようとした赤狩り。世の中の誰もが違和感を持っていたこの所業に声を上げなかった現実は本作に登場する街の人々を思わせる。もちろん街の人々を保安官に協力させて、ハッピーエンドとするのも悪くないだろう。しかし、誰の協力を得ずとも自らの正義感のみで闘い切った保安官が無言で去っていく姿を見ると、本物の悪党、ろくでなしは誰なのかを身に染みて感じる。

やはり自分は昔からこういうヒーローものの作品が大好きだ。中でもハッピーエンドとはいえない結末の作品を好むようになったのは、自分が少しは大人になった証だろうか。あの街の将来がどうなったのか、ぜひともこの事件を教訓によりクリーンになって欲しいものだが、今の世の中を見る限りどうもそうではなさそうなのが悲しいところである。
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