Tully

ベルリン・天使の詩のTullyのネタバレレビュー・内容・結末

ベルリン・天使の詩(1987年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

天使が居るのは色も音もない世界。そこでは人間たちの思考や欲望が、とめどなく溢れる 「言葉」 として彼らの耳に届けられる。ある者は不満を、ある者は希望を、ある者は孤独を、ある者は絶望を思考する。人間たちには天使の姿は見えない。だが幼な子だけはその存在に気付くことができる。自分の想いを言葉としてまだ十分に表現できない子供たちだけは。何の気なしにポカンと中空を見つめている彼らの視線の先には必ず天使が微笑んでいるのだ。すでに理性の確立した大人たちには、子供たちはただボーッとしているようにしか見えないのだが。天使は一人ではない。彼らの多くは、ベルリンの図書館にたむろする。昔の書物が集められたそこは過去と現在とが交錯する場所でもあり、時空を超越した存在である天使たちにとってはすこぶる快適な空間だからなのだろう。そのうちの一人、「天使ダミエル」 は、地上を見守るという自身の役割に疑問を感じ始めていた。そこに美しいサーカスのブランコ乗りの女が現れる。天使は彼女に恋をする。そしてついに、ダミエルは地上に降りることを決意する。それはすなわち人間になることを意味する。いよいよダミエルはこの世に生まれ落ちることになった。というよりも、彼の場合は 「死を得た」 と言った方が正確だろうか。とにかく人間になったダミエルは、色鮮やかで騒がしいこの世界で、あの美しいブランコ乗りの彼女を探し始めるのだった。本作は、ベルリンひいてはドイツという国家そのものが東西に分断されていた時代のロマンティックな大人のおとぎ話。と同時に、今となってはもはや見ることのできないであろう、冷戦当時のベルリンの姿を留めているという点において、歴史的にも貴重な作品になっていると言えるのではないだろうか。
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