TnT

ベルリン・天使の詩のTnTのレビュー・感想・評価

ベルリン・天使の詩(1987年製作の映画)
2.8
なんだか雰囲気のみでおさまってしまった感がある。音楽もモノクロームも美しいが、それはかつてあったお洒落映画のノスタルジアを存分に詰め込んだだけであった。さらに非商業映画のいいとこを商業的に使っている気がする。

物語としては、天使がいて、地上を行き交う人々の心の声を聞くというもの。この設定に対しての映像の説得力がなんとなく欠けていて、それが引っ掛かりこの映画に浸れなかった。なぜなら天使という存在があまりにも具体的な人間すぎるのだ。天使であるような表現、例えば宙を浮くとかフェードインするかのような出現の仕方とかの工夫がなかった。デヴィッド・リンチの映画に出てくるような得体の知れない人物ではなかく、人間とほとんど同じ立場なのだ。それ故彼らに天使という神秘が宿っていない気がする。また天使が彼らの悩みを解決するのだが、彼ら自身の悩みを解決するのではなくその考え方を正すのみ。ある意味ロボトミー的というか、ご都合主義すぎる。

またこの心の声というのがとても厄介だ。これが聞こえてしまっては内容が台無しだとさえ思った。彼らの心の声は、云わば説明でしかないのだ。詩的などではなく、彼らの背負う苦労を自身がつらつらと述べているのだ。それはただ愚痴を聞いているようで彼らの苦労が浮かび上がるわけでもない。天使という役割を引き立てるための道具としてしか機能していなかった。そしてベルリンという戦後の記憶を引きずっていることもあまり感じられない。実際の記録映像なども挿入されるが、それもあまりに説明的な入れ方。本ならわかるが、この心の声の表現は映画の映像表現と相容れないものがある。

また天使が恋をする設定だが、明らかにこの恋が浅い。サーカスでパフォーマンスする女性に恋をするのだが、なんというか撮り方が艶かしい。それって恋というか色情じゃないか?と思った。天使という純粋さからは考えられない恋の始まり(これがまた説得力を欠く原因)。しかもこの後にご丁寧に彼女は裸になる。さらにフェードでその裸はカラーになるのだ。モノクロームの彫刻のような裸ならまだしも、さらに色がつきより生々しさがつきまとう。だから、あれこれ詩を並べながらもその内心下心まるだしなのだ。ただ、ブルーノ・ガンツの表情が純粋なのでギリギリ耐えられる。

もしこの映画が群像劇のような体で語られていたならまた違ったであろう。個々の人物にもっと焦点を当てるべきだった。やはりどうしても主人公のブルーノ・ガンツの恋がどうなるかが気になってしまう。それも物語で終盤語られるなら良いものの、かなり序盤で恋をするシーンが挟まる。そっからその恋の行方をお預けで別の物語が始まっていく。この恋の伏線のせいで他の物語が装飾的にしか見えない。だからこの映画は、ベルリンが舞台である必要性がないのだ。

また映画内にでてくる映画の撮影現場、サーカス小屋があまりにも現代的ではないというか、ノスタルジアでしかなかった。ベルリンを舞台にするならば、なぜサーカスと映画という虚構を取り上げたのだろうか?もっとベルリン自体に寄り添うテーマがあったはずだ。むしろこの映画とサーカスの題材はフェリーニの真似にしか思えない。フェリーニでさえ「インテルビスタ」や「フェリーニの道化師」で映画とサーカスのテーマをそれぞれ分けて描いている。しかも「フェリーニの道化師」に関しては、もうサーカスの時代ではないという自覚があるのだ。これらフェリーニの映画は、それぞれのテーマを分けてそれが持つ意味をちゃんと見いだせた。しかし、今作では付属品にしかすぎなかった。ちなみにロックのライブ会場のようなものも出てくるが、これまたフェリーニは「ボイス・オブ・ムーン」でマイケル・ジャクソンの音楽を使っていた。現代のポップミュージックはまた別テーマとして表現していた。今作はそういったものの表層のみを描きすぎている。

一番危機感を抱いたのが、インディーズ映画の商業化だ。随所に見られる"詩的"な映像表現はインディーズ映画や実験映画の用いた手法を上手く取り入れている。だがこれも寄せ集めだ。それもこれは夢ですよと言わんばかりに説明的な使い方。全部理論的で説明的な手法となっている。しかもこれがカンヌで最優秀監督賞を取っているのがおそろしい。明らかに、カンヌの好みに沿って作られたようにしか思わない(カンヌは実験的で難解を装った作品を好むことが多い)。
実際に難解なものと、難解を装ったものは明白に区分けできる。そこに監督の哲学や思想があるかないかだ。とにかく自分は入り込めなかった。商業化は映画を観る人間の知能著しく下げているように思う。

最後に「続く」と出たとき、あーこれはコメディ映画だったんだなと思った。さらに小津、トリュフォー、タルコフスキー(かな?)に捧げると書いてあり、あーやっぱりコメディだったと確信した。


TnT

TnT