YasujiOshiba

バラの刺青のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

バラの刺青(1955年製作の映画)
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イタリア語版BD。24-49。英語にイタリア語字幕で鑑賞。アンナ・マニャーニからテンと呼ばれたテネシー・ウィリアムズが彼女のために書いた戯曲の映画化。舞台のほうは英語がダメだからと結局は出演しなかったのだけど、映画では英語のセリフを丸覚えして臨んだという。

 このBDではイタリア語の吹き替えも選択できた。吹き替えはアンナ自身が行っているのだけれど、ここはやはり英語で聞きたいところ。少し聞き比べてたけれど、英語だと迫力が違う。ときどき混じるイタリア語の勢いを借りて、アンナ・マニャーニはシチリア移民セラフィーナのみごとな依代となる。いやもしかすると、セラフィーナがマニャーニの依代だというべきっか。ウィリアムズが彼女のために書いた本なのだから。

ランカスターの演技もみごと。ちょっとお頭の弱いシチリア移民なんだけど、ときどき混ぜてくるイタリア語がわるくなくて、マニャーニとの息もピッタリ。泣いているマニャーニと一緒に泣き出してしまうところなんて最高。笑っちゃった。これって、喜劇なんだね。マニャーニに迫力がありすぎちて、悲劇的にも見えちゃうのだけど、よく考えればイタリア系の移民たちが大騒ぎをする喜劇であるべきもの。だって、ハッピーエンドだし。

セラフィーナの娘ローサもイタリア語が自然だなと思ったら、マリーサ・パヴァンはイタリア人なのね。しかも双子の姉妹ピア・アンジェリもアメリカで活躍しジェームズ・ディーンとつきあっていたとか。ハリウッドでうまく売り出したイタリア人なのね。そのマリーサ・パヴァンも、この映画でアカデミー助演女優賞にノミネートされているが、賞は逃す。その代わりに、授賞式に出席しなかったマニャーニの代理として、主演女優賞のオスカーを受け取って涙を流したという。同じイタリア人の受賞がうれしかったのだろうな。

ちなみに、セラフィーナの役はお針子さんだけど、じつはアンナの育ての親となった祖母ジョヴァンナとその娘たち、つまりアンナのおばさんたちもお針子さんだったんだよね。ミシンを扱えるというのは19世紀の女性として手に職をもったようなもので、今で言うところの職業婦人。そういえば戦後の日本でも洋裁学校に行くというのが、女子が手に仕事をつける王道みたいなところがあって、僕の母も洋裁学校を出て、洋裁教室をしていたんだよな。

追記:
 テネシー・ウィリアムズは1948年にフランク・メルローと出会っている。シチリア移民2世でリトル・ホースというあだ名を持つメルローとの関係があったから、ウィリアムズはシチリア移民の話が書けたわけだ。ランカスターの役名が「Mangiacavallo」(食べる mangia + cavallo 馬)というのも、そこから来ているのだろうか。

 1950年、ウィリアムズは彼の恋人のメルローとともに、パリでアンナと会って、戯曲『バラの刺青』の話をもちかけたという。ブロードウェイの舞台の話だが、これは断られる。アンナは出演しなかったが、舞台は大成功し、映画への弾みがつく。それでも何度かあんなは躊躇し、1954年になってようやく契約。飛行機嫌いの彼女は船でニューヨークに渡って撮影に臨んだという。

 
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