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キス・ミー・ケイトのくりふのレビュー・感想・評価

キス・ミー・ケイト(1953年製作の映画)
4.0
【「So in Love」にFall in Love】

本作の魅力はまず、主題歌「So in Love」のうっとりな名曲ぶりです!(きっぱり) かつての日曜洋画劇場、淀川さんのサヨナラ×3後に流れた楽しき日曜の終焉を告げる、あの響き…。

しかしこの元祖(映画版)の方は、M・グールド編曲版の重厚さが薄く、しっとりな愛の歌ですね。元気出ます。サントラ借りて、厳しき日々の隙間で聴くと潤う潤う(笑)。

コール・ポーターによる舞台の映画化、キビキビしたミュージカル。自然と心が躍り、全盛期のMGMって大したものだ、という底力を感じます。

馴染みのスターさんは不在ですが、匠が集う総合力としての華がありますね。遊びが入る余裕もあるし、なかなかの特盛りです。

シェークスピアの『じゃじゃ馬ならし』を演じる劇団の話ですが、面白さの肝は劇中…『じゃじゃ馬ならし』の登場人物の葛藤と、劇外…登場人物の実際の葛藤が混線してしまうところでしょう。

で、観客無視して舞台ではじまる艶笑バトル! …「尻叩き」がいいんです! じゃじゃ馬ならしのシンボルでもある大見せ場。本作のキービジュアルもそれですね。今ならフェミが「男叩き」してきそうですけど。

ケイト役キャスリン・グレイソンさんはこの時、まだ30代に入ったばかりですが、肉厚な美熟女っぷりがいいんですよ。これは叩き甲斐あります!

もちろんその前に、伊達男っぷりが様になるハワード・キールとのデュエットが素晴らしいことは言うまでもありません。「So in Love」の初披露でまず聞き惚れますが、それがまだリハである、というところに溜めと含みがあって、名場面となっていました。

この二人はあまり踊れないそうですが、そんな歌唱中心チームとダンス中心チームに分けたキャスティングも巧いなー、と思います。

ダンス代表がアン・ミラーさん。この人のタップがまた見事なんですが、初っ端、狭いアパートの室内を縦横無尽に踊り切る所にまず匠を感じます。広いステージよりむしろ難しいんじゃないだろうか。ちゃんとそれを追うカメラもいい仕事していますが。

ただお顔がちょっとね(笑)。ほっぺがふくよか過剰なのと、目が座ってるところがちょっとこわい。…でも、見事なラインフル見せボディには文句ありません!

彼女と、三人の求婚者役とのミュージカルが一方の大見せ場ですね。その一人が駆け出しの頃のボブ・フォッシーですが、彼のダンスは一番鋭利ですぐわかります。彼ら若手ダンサーにはそれぞれ、好きな振り付けで踊らせたそうで、本作の懐の深さを感じます。元舞台にはなかったものも追加しているそうですね。

懐深さの究極は、まるで踊れなかった借金取りおじさんコンビでミュージカルをつくってしまったこと。でも、これがホンワカでいいのですよ。結果的に、一番なごめるシーンになっていると思います。どこかコケティッシュだし!

ラストはあっけなくて、ケイトの豹変ぶりがものすごいんですが、シェークスピア原作が様々な解釈をされてきた歴史を思うと、受け取り方も様々だと思います。「ケイトの逆襲」としてこの後を妄想してみるのも面白いですね。

みてから時間経ってしまった作品なのですが、いまだに、塊としての面白さ・華やかさが心に残っています。こういう、ちょっと知られていない風だが実はちゃんと面白い、という作品こそ、午前十時の映画祭でかけてもらえないものですかねえ。できたらスクリーンで楽しみたいです。

<2014.3.2記>
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