Habby中野

あした来る人のHabby中野のネタバレレビュー・内容・結末

あした来る人(1955年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

愚かで、迷い、過ちを犯す、狭く短い世界を生きる人間。そんな人間が一度来た道を戻ることを、別の道を歩むことを許す優しさのようなもの。愚かさへの自覚と皮肉に、少しばかりの愛があるのは、川島雄三の本音だろうか。
芯のある人間の理想像を見るより、迷いや揺らぎのある方がおもしろいし説得力がある。全役者の演技が素晴らしいが白眉はやはり三國。気弱ながらオタク気質でぐんぐん進んでいた彼が段々と道に迷い始める、あの戸惑いとその裏にある感情と思考の葛藤みたいなもの、彼の自制と他の者の自省とのコントラスト。
そして何より川島節とも言えるシーンのつなぎ方の美しさ。社長室から列車内へ回想する。列車内で資料を広げる。しかしいつしかその資料を見ているのは社長室の二人へ帰っている。あるいは会話中の風景インサート、かと思えば話者はその場へ移動している。それから終盤の公園での移動しながらの会話も。場所に、接続詞に縛られない、ひとつなぎの美しさ。あるいはそれはフレームの中心にある人間の存在を、背景や段取りとしての場所、そして映画のフレームというそもそもの枠組みのある種図々しさみたいなものから、取り出そうというもっと重みのあるテーマ的な手法なのかもしれない。接続詞の少なさを見習いたい。
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