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ノー・マンズ・ランドのtakのレビュー・感想・評価

ノー・マンズ・ランド(2001年製作の映画)
4.8
見終わって言葉を失った。戦争とは何と空しいものなのだろう。この映画は、他の戦争映画とは全く違う。激しい戦闘場面も、横たわる屍を示して反戦を声高に訴えたフィルムはたくさんあるけれど、この映画にはそれもない。紛争中のボスニアとセビリアの中間地帯、ノー・マンズ・ランドと呼ばれる地域に取り残された3人のギリギリの様子をカメラは追っていき、彼らを救おうとする国連防護軍、スクープを追いかけるマスコミも絡めて、映画は時にコメディタッチに、時にシリアスに描いていく。そして落差の激しい空虚なラストシーン。カンヌの脚本賞を受賞しただけに、見事なストーリー・テリングを見せる。

三人の兵士は塹壕に取り残され、不安とエゴと親しみ、憎しみが交錯する。銃を突きつけて「この戦争はお前の国が悪い!」とののしる。そして銃口を向けられた方が「オレの国が悪い」と答えさせられる。無益だ。国家間で銃を向け合う戦争も同じようなものかもしれない。でもそうせずにはいられない。互いに共通の知人がいたことから心の交流が生まれかかるが、次の瞬間には「今度合うときは照準器の中だ!」と突き放される。戦争さえなければ案外いいヤツかもしれない。戦争さえ、なければ。

三人を救おうにも救えない国連防護軍の面々。権限のあるなしで指示が乱れる上層部。現場の軍曹はマスコミを利用して上層部を動かそうとする。テレビを見て慌ててヘリを飛ばす上官の姿はおかしい。けれど、政府の重要人物から「TVの報道で事態を知りました」との言葉が平気で飛び出すような我が国。人のことは笑えないだろう。

「何もしないのは紛争に荷担しているのと同じ」この台詞がやたら耳に残る。これは国連防護軍の立場を言い表しているのだけれど、同時に観客にも訴えかける。”平和”について考えることで、戦争を止めることはできないのだろうか。言っておきたい。それには、まずこの映画を観ることだ。そして心に感じたことをどんどん周囲の人々に語って欲しい。映画のメッセージは人の心を動かす。世界を変えることだってできるかもしれない。

(追記)
上のようなレビューを当時書いたその後。

この映画は2002年発表のアカデミー賞で外国語映画賞受賞。2001年の同時多発テロ後だけに、反戦映画が選ばれるのはアカデミー会員の平和へのメッセージだったのかもしれない。
しかし世の中は難しいもので、2003年にアメリカはイラクに軍事介入することになる。
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