ブタブタ

ランド・オブ・ザ・デッドのブタブタのレビュー・感想・評価

ランド・オブ・ザ・デッド(2005年製作の映画)
3.5
ジョージ・A・ロメロ監督『死者の国』

ロメロ《ゾンビ新三部作》第一作。

『死霊のえじき』より実に20年の時を経て完成したジョージ・A・ロメロの新たなるゾンビ・サーガの第一作。
当時、応募した試写会鑑賞券が当たって神保町のホールに見に行きました。
会場には井筒和幸監督も来てて「わー井筒監督だー!ヽ(*゚∀゚*)ノ」と何故か俄然テンションも高まりました。
のち井筒監督はテレビの映画評論コーナーで本作を「ゾンビは進化したけどロメロ監督はちっとも進化してない。しかしそれがいい!(。-`ω´-)ウム」と語っていました。(僕もそう思います)

予算の関係で完成しなかったオリジナル脚本の『死霊のえじき』は当初ダリオ・アルジェント監督も制作に関わっておりドル高の影響でイタリアからの資金調達が叶わなった事、そしてアルジェント監督も制作から外れてしまった事でオリジナルから大きくスケールダウンして完成したわけですが、『ゾンビ』があれ程の傑作になったのは勿論ロメロ監督の作り出した「モダン・ゾンビ」と言うそれ迄のゾンビ映画とは一線を画す新しいモンスターとしてのゾンビを創り出した事が大きいのですけど、そこに更にはロメロ監督の社会への風刺や死者と生者の関係と言う哲学がベースにあり、そして更にはダリオ・アルジェント監督のホラー映画に見られる美学や画面作り、冷徹な迄のドライスティックな視線が加わる事で『ゾンビ』はゾンビ映画・ホラー映画の域を超えて映画史に燦然と輝く大傑作となったのだと思います。

本作も残念ながらダリオ・アルジェント監督は制作には関わっていませんがその代わり(?)ダリオ・アルジェント監督の娘さんのアーシア・アルジェントに加えデニス・ホッパー、ジョン・レグイザモとロメロ映画には珍しい豪華キャスト。
その為か主人公ライリー(サイモン・ベイカー)に全く存在感がなく目立ちません。

一部の特権階級が富を独占しその他の人々は奴隷の様な状態にあると言うのはオリジナル脚本『死霊のえじき』からの流用プロットだと思いますが、支配者層の描き方が現代社会のそれと大差がない為に「地球はゾンビに支配されている」と言う設定に違和感を生じて緊張感を削ぐ結果になっていると思います。

ロメロ・ゾンビ第一作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』から一貫して黒人のキャラクターが主人公らを(いい方にも悪い方にも)引っ張り導く「導師(メンター)」としての役割を担っているのですが『ランド・オブ・ザ・デッド』ではとうとうこの「導師(メンター)」が人間からゾンビへ、高い知能とカリスマ性を持ったゾンビ「ビッグダディ」へと移ってしまいます。
これは人間の時代の完全なる終焉と地球の支配者はゾンビ、そして労働者階級である事を示す青いツナギを着たビッグダディは支配者達に対する労働者(ブルーカラー)の反乱とそれらを滅ぼし取って代わる事の象徴なのでしょう。

我らがトム・サヴィーニ演じるゾンビ「ブレイド」は『ゾンビ』に登場した暴走族メンバーがゾンビ化した同一人物!との事で鉈を振り回して大暴れしてくれます。
「見世物小屋のゾンビ」にはサイモン・ペグ&エドガー・ライトとゾンビ・キャストも豪華です。

『死霊のえじき』のオリジナル脚本からのアイデア流用も多々見られるとはいえ、やはり『死霊のえじき』のオリジナル脚本版をこれだけの規模でやって欲しかったです。
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