逃げるし恥だし役立たず

おくりびとの逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

おくりびと(2008年製作の映画)
3.5
オーケストラのチェリスト・小林大悟(本木雅弘)が楽団の解散を機に帰郷して職探し、条件や成行から妻の美香(広末涼子)に内緒で納棺師になってしまう。“納棺師”という職業を通して様々な死と向き合い人生をみつめるヒューマンドラマ。
永らく空席だった伊丹十三の十八番の見知らぬ職業モノへの着眼点のみの映画でありベタベタな脚本にミエミエの雑なストーリーを題材と映像と役者の人物造形がフォローした秀作。元スナックの住居や納棺師の事務所や坂の途中の建物や雰囲気、町並みや民家や商店街、田園風景などの何の変哲もない日本の地方都市を美しく映像化した事は素晴らしく、放置すれば個性が暴走する本木雅弘と未だに拙い演技の広末涼子に対して山崎努や余貴美子や吉行和子や笹野高史、杉本哲太の役者の貫禄で安定させたのは見事の一言。困ったことに美味いんだと言う社長、死者に見送りの挨拶を欠かさない火葬場職員、笑顔は俺の子供の顔だったと泣く父親、故人の生前でのあらゆる表情を凝縮した其々のエピソードが胸を打つ。笑いを交えながらコミカルに描いているが、人が死と向いあう場面の全てが良く、生と死、俗と聖の境界に即した達観や心情を読取れるだけでも充分満足であり、映画の出来云々というよりも此のテーマを娯楽映画として成立出来た事に非常に意義があったと感じる。少しは丁寧に描いて欲しいシーンが多々あって細かい所が雑になっているが、逆に分かりやすい展開に仕上がっていて、或る意味で良く出来ていると言うべきだろう。本木雅弘の納棺師の所作も美しく、新たな世界を発見させてくれる感動的な作品である。