シミステツ

愛しのタチアナのシミステツのネタバレレビュー・内容・結末

愛しのタチアナ(1994年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

英題は『Take Care of Your Scarf, Tatiana』
フィンランドを舞台にしたアキ・カウリスマキ監督のロードムービー。コーヒーが切れているだけで母親を納戸に監禁して金を奪ってコーヒーを買いに行くコーヒー狂のバルトと自動車整備工でロックンローラーを気取るレイノ。シャイで無口な二人の織りなす空気感が絶妙でたまらない。
出発したて酒飲みながら一人語りをかますレイノも疲れて無口になって。二人の酒とコーヒーの対比も面白いし、目立って言葉を交わさず淡々と佇む二人が愛しく思える。

ロシア人のクラウディアとエストニア人のタチアナに声をかけられ港まで送る二人。「フィンランド語を話せよ」って言って一蹴した後に「少し話せるわ」と言われ願いを受け入れざる得ない絶妙な感じになるのもいい。居心地の悪さが癖になる。

「ロシアの男は話し好きよ」

ホテルに宿泊するも視線も合わせず会話もない。レストランでもみんな無言でタバコを吸ってるだけ。居た堪れなかったのかレイノが謎の小話を始めて失速して終わったのもかわいい。ツインじゃない気まずさ、タバコを持ったまま寝たレイノのタバコを取り吸うタチアナ。肩を寄せ合うシーンも静かで印象的。引き算の中にも豊かな表現が詰まっていて人間の機微を感じられる。語らなくてもいい。十分に物語る。

「外国へ行った事あるか?」
「ない」
「金あるか?俺はカラッケツだ」
「少しならある」

別れを告げるも結局フェリーに乗る二人。同席して少し笑うところいいな。

「俺は彼女とここに残る」
「作家になる」

一輪の花を渡されて一人残されるヴァルトの気まずさ。車でコーヒー店に突っ込みカッコよくコーヒーをくれと頼む妄想(カッコいいのか)、現実は家に帰り閉じ込めた母親を解放して(遅い)コーヒーを淹れてもらう。ミシンの音が響く。

『ナイト・オン・ザ・プラネット』にも出ていたマッティ・ペロンパー、眼差しがめちゃくちゃいいんですよね。肘でビンの底叩いて開けるの好き。