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推手の一人旅のレビュー・感想・評価

推手(1991年製作の映画)
4.0
TSUTAYA発掘良品よりレンタル。
アン・リー監督作。

ニューヨークを舞台に、息子夫婦の家に居候する中国人の父親の姿を描いた家族ドラマ。

台湾の名匠:アン・リーの長編初監督作品で、『ウェディング・バンケット』(1993)『恋人たちの食卓』(1994)と共に構成される「父親三部作」の第一作。中国からニューヨークにやってきた太極拳の達人でもある高齢の父親と、彼が居候する息子夫婦の関わりを描いた家族ドラマで、ポイントは息子の妻がアメリカ人(白人)であることによる“異文化遭遇譚”的趣きが顕著に映し出されていることです。

同じ屋根の下で暮らす父親と息子夫婦ですが、家の中はアメリカ的文化と中国的文化が渾然一体となっています。父親が茶碗によそったご飯とお肉を口に運ぶ光景がある一方で、向いの席ではベジタリアンの嫁が野菜中心の食事を摂る様子が映し出されます。半紙に筆を走らせて中国語の文章を書いていく父親と、作家である嫁の英語による執筆作業が両者の言語の隔たりを象徴しています。さらに父親は英語を話せないので、嫁と父親の会話は息子の通訳を介さないと成り立ちません。英語が判らなければアメリカの番組を観ても理解できないので、父親は息子が入手してきたカンフー映画や京劇のビデオを熱心に観て時間を潰すのです。そのようにして、アメリカ人の嫁と中国人の義父の奇妙な共同生活の様子を、両者の文化の違いを際立たせたユーモラスな人物描写&風景描写によって映し出しています。

中国人の父親と息子夫婦の関係性を通じて“家族の在り方”を浮かび上がらせています。理解できないからといって始めから相手を突っぱねるのではなく(これが「推手」の意味合いと通じます)、相手やその文化を理解し尊重しようとする歩み寄りの姿勢が、調和の取れた幸福な家族を築く上で求められていることが判ります。
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