にしやん

タレンタイム〜優しい歌のにしやんのレビュー・感想・評価

タレンタイム〜優しい歌(2009年製作の映画)
3.9
他民族国家マレーシアで、人間と人間を恣意的に分断しないことをテーマに6本の優れたヒューマンドラマ作品を撮り、51歳で急逝したヤスミン・アフマド監督の遺作やな。

高校の学内音楽コンクール(タレンタイム)に出場する3人の学生を中心にした群像劇やねんけど、なにはともあれ彼らの民族的宗教的背景の多様さにびっくりするわ。マレーシアってめちゃめちゃ多民族国家やねんな。正直知らんかったわ。マレー人、中国系、インド系、先住諸族と民族も様々。宗教も、イスラム教を国教としながら、仏教、儒教・道教、ヒンドゥー教、キリスト教と多種多様。民族や宗教の違いといった壁を乗り越え、人と人とが、心で通じ合うことを目指した監督の強い願いがひしひし伝わる作品やな。

冒頭、広めの教室で旋回する扇風機と蛍光灯の明かりがついていくショット。その後、ドビュッシーの「月の光」の調べに乗せて学校の中庭の木々や窓や校舎の廊下へと続いていくわ。どうってことない何気ない光景のようやけど、この時点でこれからええ映画が始まるなという期待感が膨らむわ。

映画の中で上手いなと思たとこは、まず誰かが誰かに対して誤解をすんねんけど、そのが誤解が解けた時には逆に強い絆が生まれるということを重層的に描いたことや。挨拶ひとつ返してこうへん無礼者やという誤解。成績首位の座を奪われたんはライバルが不正したからやいう誤解。監督が金持ちのムスリムの女の子とヒンドゥーの耳の聞こえへん男の子の恋愛話をメインにせず、バランスのええ群像劇にしたんもその辺にあるんとちゃうかな。現実のマレーシア社会に存在する、民族や宗教から生まれる様々な誤解とも重なるわな。

この作品、優しく切ないヒューマンストーリーとユーモアあふれるシーンが特徴なんやろけど、インドネシアのギャグのセンスにはちょっとついて行かれへんとこもあったかな。年代の問題か、文化の問題かは分からんけど。金持ちのムスリムの女の子の家庭の中のシーンでも「ここ完全に笑かそうとしてんな」と思て観てたけど、わしにはいまいちツボ外れてしもてて。タレンタイムのオーディションのとこでも、主人公3名のパフォーマンス以外はほとんどお笑いネタやし。差がありすぎやって。あと、やたら屁こく先生とかもちょっとな。子供の頃のドリフの全員集合やな。太った校長先生(?)にコクるシーンってのも、これ要んのかなって。

​タレンタイムというイベントを中心にそこに関わる4人の少年少女とその家族を描く話ってことなんやろけど、映画の立ち上がりに締まりがないというか、描写や説明がぬるいというか、今一つ「タレンタイム」が彼らにとってどういう位置づけの大会なのか見えてこうへんかったな。​そういうストーリーの核となる出来事(本作の場合は「タレンタイム」やろ)と関わるように人物の背景や動機を描くんが普通やのに、結局最後まで「タレンタイム」というイベントに特別な役割や意味付けがいまいちあれへんのが疑問やわ。ストーリーとしては「タレンタイム」の本番を目指して流れていってるし、クライマックスは当然「タレンタイム」の本番になってねんけど、主人公等の周りで起きるドラマは「タレンタイム」とは全く関係あれへんとこで起こってて、主人公​等​の抱える​様々な​悩みや問題は学校の外へ外へと向かってしまってるから、「​タレンタイム​」​本番の盛り上がりに今一つ欠けてる印象があんな。「タレンタイム」を軸に「タレンタイム」本番に向かっていく展開にも関わらず、タレンタイムに直接関わるシーンの印象がこんなに薄いっていうもどうなんやろな。

それとちょっとイラっとしたんはヒンドゥーの男の子が耳が聞こえへんというんが最初わし全く分からんかったことや。普通はそういう重要な情報は観てるもんにもさりげなく伝えるべきとちゃうかな。それともわしが鈍感なんやろか。それと、最初の悲劇の場面もそうやし、入院しているオカンの場面もそうやし、重要な情報について全く説明せんと唐突に進めていく脚本には、ちょっと不親切なもんを感じたな。わしなんか、最初あの太ってる校長先生が入院したんかと思てしもたもん。あと病院でちょこちょこ出てくる謎の車椅子のオッサンもちょっと説明不足とちゃうかな。分からんわ。

あと人物の描写についてもそう。人物それぞれの感情はちゃんと描き分けできてるんやけど、母親の死とか障害とか宗教や民族の違いという人物の背景以上の切実さがドラマには感じられへんかったかな。それに、結局「タレンタイム」を通して、何かを訴えたいんか、歌う喜びなんか、賞金ほしいんかとかもはっきりせえへんし。「タレンタイム」への動機付けがやっぱり見えへんな。ラストの二胡の演出のところもそこに至る過程が今一つ見えへんかったから、美しい、優しいシーンではあんねんけど、ちょっと唐突な感じもしたな。もうこれ最初から狙ってんなというか・・・。

イメージフォーラムはほぼ満席で8割方は女性。その女性の6、7割は映画中盤から泣きじゃくってはったけど、正直わしはそこまでは乗れへんかった。オッサンには合わへんのかな。優しいというか、ちょっと甘口すぎたわ。確かにええ映画やったとは思たけど、そこまではという感じやな。映画の作り自体の粗さも同時に気になってしもたわ。
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