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欲望のあいまいな対象のpikaのレビュー・感想・評価

欲望のあいまいな対象(1977年製作の映画)
4.5
ブニュエルの遺作。

二人一役のインパクトたるや!
「自由の幻想」の鳥と同じくモロぬいぐるみのネズミとかハエとかズタ袋とか、ちょいちょい暗喩めいた「なんなんww」みたいなのぶち込んでくるあたり、さすがブニュエル!サイコーです。
シュールな笑いと言うだけあってシュールレアリズムと笑いは紙一重と言うか敢えてコミカルにして楽しませようというのが根本にあるみたいで、でもそれが奇をてらった奇抜な装飾にはなっておらず、カメラワークや挿入するタイミング、編集のキレに見える凄まじい演出テクニックが基盤にあるから、「忘れられた人々」を筆頭にヘビーな社会的リアリズムだとか文芸映画的な作品も傑作に仕上げるブニュエルだからこそ、ブニュエルにしか出来ない芸当なんだと改めて痺れた。

80間近の老人が遺作に「セックスしたいおっさんと金のために翻弄する美女」のドラマを作ってしまうセンスが最高!
純真無垢で、処女性を提示している美少女は誰もがムチムチの肉とスベスベな肌を〜と触りたくなるようなセクシャルな色気に満ちていて、それに対し臆面もなく自信満々に我が物にしようとする老人、という構図は「ビリディアナ」から演じ続けてキモさが進化してきたフェルナンド・レイの「美少女をモノにしたい老人」に沿って一貫したものに思えてやまず、ブニュエルのフェティシズムを体現した自己の投影であるだろうと勘繰らずにはいられない。

女性=女優=映画という比喩で、無垢な情熱は現実によって脱皮させられるとでも言えるのだろうか、
孫と祖父ほどの年齢差で無垢な少女を強制的に女に変えてしまう老人は、若者に未来を譲らず希望を踏みにじる現代社会の構図そのものを暗喩しているのだろうか、
単に愛とは充足した生活の上に成り立つものであるだとか、愛にセックスは必要不可欠であるのだろうかとか、愛と性と金(生活)の三すくみ的なバランスを皮肉っているのだろうかなど、どんな角度から見ても様々に掘り下げることができて、それぞれに面白い。

そんな風にアレコレ考えさせられながら迎えたラストの衝撃は、これまで何十作とシュールレアリズムやリアリズムを駆使しながら社会や世界や人間について、生々しくも痛烈な皮肉を表現し、警鐘を鳴らしてきた最後の最後に全てをゼロに戻すかのようで、それでいて全く悲観的でもなく、アレコレ言っても無意味、でも弾けようぜ!的なアナーキーさに満ちていて、とにかく最高に素晴らしい終わり方でした。
なんかもう、ありがとうございました!ブニュエル最高です!これからも何度と作品を繰り返し見ていきます!!
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