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フェリーニの道化師の一人旅のレビュー・感想・評価

フェリーニの道化師(1970年製作の映画)
3.0
フェデリコ・フェリーニ監督作。

ヨーロッパ各国を代表する道化師たちへの取材風景を描いたドキュメンタリータッチのドラマ。
サーカスは小学生の時に一度だけ見たことがある。ちょうど巡業で地元に来ていて広々とした空き地にテントが設営され、各家庭にチラシが配布されていた。かなり前のことなのに、その光景だけは大人になった今でも鮮烈に記憶に残っている。
本作では、フェリーニ自身が道化師を題材としたドキュメンタリー映画の監督役となって道化師たちの元を訪れる。フェリーニの少年時代の回想場面では、サーカスが人々を笑いと驚きで魅了する様子が映し出される。巡業でやってくるサーカスは町の人々にとって一大イベントだ。大人も子どもも吸い寄せられるようにサーカスの巨大なテントに足を運んでいく。だが時が流れ、サーカスとともに道化師の人気も失われてしまった。年老いた道化師は華々しかった昔の自分の姿を懐かしく思い出す。古びたサーカス劇場では公演回数も減り、大人は見に来ない。
クライマックスのサーカスは圧巻で、時代を彩った多数の道化師が思い思いにそれぞれの持ちネタを全力で披露する。それは、長い間人々に忘れ去られていた悲しみを道化師ならではの底抜けの明るさと笑いで吹き飛ばしているようだ。
道化師の時代は失われてしまった。それでも、道化師の記憶は人々の心と道化師自身の心の中にいつまでも残り続ける。サーカスの表舞台で見せるユーモアたっぷりの道化師の姿と、その裏側に隠された悲哀。道化師という人間に対するフェリーニの愛と個人的ノスタルジーに溢れた作品だ。
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