ら

水の中のつぼみのらのネタバレレビュー・内容・結末

水の中のつぼみ(2007年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

場合によっては、単なる象徴的なファム・ファタールにも見られそうなフロリアーヌのキャラクター性が個人的に一番面白いと思った。自身の持つ魅力を利用してしたたかに生きているが、魅惑的すぎるがゆえに性的に男性を惹きつけてしまい女性からは憎まれる。それゆえ、誰よりも人間の浅ましさや卑しさに触れ、若くから諦念のようなものを身につけてしまっている。それでいて実は臆病な面もある。

フロリアーヌをシンクロナイズド・スイミングの選手に設定したシアマの感性は鋭い。水上では優雅で華々しい反面、水の中では必死にもがいている姿が彼女のキャラクターと境遇を的確に表している。ラストシーンでフロリアーヌはマリーを突き放すような形になるが、その理由もまず先に自分がマリーに裏切られたと感じたからだ。もしかすると本当の友達になれるかもしれないと思っていたマリーのことを、自身の性的な魅力に惹きつけられて寄ってくる無数の人間たちと同じであるとみなす。マリーよりフロリアーヌの今後のほうが心配で、実は最も悲しいキャラクターであるかもしれない。

『燃ゆる女の肖像』でシアマは意図的に画面上から男性の存在を排除していたけれど、この映画では大人の存在が排除されている。また、男性は登場してもあくまで得体の知れない部外者であり、その存在感は希薄である。内側を徹底的に描くことでその外側の構造をも浮かび上がらせるーー結果的に作品は批評性を帯びるーー巧みな手腕はこの頃から既に発揮されていた。
ら