逃げるし恥だし役立たず

ニューオーリンズ・トライアルの逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

4.0
銃乱射事件による銃メーカーへの訴訟裁判の裏側で、原告側・被告側双方の弁護士が有利な陪審員を確保すべく熾烈な裏工作合戦の駆け引きを展開していく、『ペリカン文書』などの人気作家ジョン・グリシャムの「陪審評決」を映画化したリーガルサスペンス。
ニューオーリンズの証券会社に乱入した男が銃を乱射して十六名の死傷者を出した挙句に自殺するという事件が起きた。それから二年後、事件で夫を失った女性は理想に燃える地元のベテラン弁護士ウェンドール・ローア(ダスティン・ホフマン)を雇い、犯行に使われた銃の製造元であるヴィックスバーグ社を相手に製造者責任を問う民事訴訟を起こす。裁判に臨む銃製造メーカーは評決を自由に操ると豪語する伝説の陪審コンサルタントのランキン・フィッチ(ジーン・ハックマン)を雇い入れて、陪審員候補者たちの身元を徹底的に調べ、裁判を有利に進められる十二人の陪審員を選ぶよう目論む。しかし、陪審員団の一人に選ばれたニコラス・イースター(ジョン・キューザック)が独自に陪審員の心理を巧みに誘導して裁判の行方を操ろうとする。其処に「評決を一千万ドルで買わないか」と持ちかける謎めいた女マーリー(レイチェル・ワイズ)が現われる。元弁護士という経歴を持つ人気作家ジョン・グリシャムが米国式裁判(特に刑事裁判)における陪審員制度の現状をテーマに描いた原作「陪審評決」を『インサイダー(1999年)』がタバコ会社を題材にしていたため、本編では訴訟の相手が銃会社に変更されている。
多大な報酬を目的に陪審員たちを懐柔しようとする陪審コンサルタントの存在から司法制度の矛盾に迫ると云う法廷サスペンスにミステリーとアクションを盛り込んだストーリーで、プロット自体は其れ程新鮮味は無く、少々盛り上がりに欠ける感があるが、謎めいた登場人物と小気味の良く切替わる場面展開、スピード感ある演出、痛快な逆転劇など脚本も隙が無く、惹き込んで一気に観せる。下積み時代からの親友のジーン・ハックマンが陪審コンサルタント役、ダスティン・ホフマンが原告側の弁護士役という敵対する役柄で初共演したのも話題だが、大物俳優が競演すると互いが衝突するシーンがいつも最後の方に引っ張られて、見せ場のトイレでの対決シーンもストーリー構造の本流から外れており勿体ない。暴力的で迫力や凄みが光る陪審コンサルタントのジーン・ハックマン、得体の知れない二人の若者のジョン・キューザックとレイチェル・ワイズ、彼らの曲者ぶりの一方で、静かに正義の炎を燃やす弁護士のダスティン・ホフマンは些かワリを食った印象である。
陪審員候補の過去の経歴や行動理念や仕草で判断して選別していく陪審コンサルタントという題材だけに焦点が当てられて、ニューオリンズのという土地柄による人種の構成や政治性なり宗教等々が陪審員の人間的側面に反映されず、『12人の怒れる男たち』の様な陪審員同士の議論も薄くて説得力に欠けており、結果的に法廷論争や法廷心理劇と云うものが全く存在しない。一方で銃社会へのメッセージも本篇に些少な関与でしかしなく如何にも通り一遍の印象で、アメリカを銃器メーカーが牛耳っている現実の重さの問題提起は棚上げされている。タバコ会社訴訟だった原作をダスティン・ホフマンの提案もあり銃会社訴訟に変更して、アメリカにおける銃社会の深刻な実態と陪審員制度の二大問題に真っ向から取り組んだ社会派問題作と思いきや、プロの仕事師たちの駆引きや騙し合いがメインのエンタテインメント、結末は随分回りくどい復讐劇で丸く収まって、原告も被告も同じ穴のムジナに感じられる。個人的に此の題材なら、無駄に派手なエンターテイメントにせずに硬派でストレートな社会派の骨太ドラマにすれば胸を打つ作品になったと思う。まあ原作はミシシッピ州が舞台のタバコ会社訴訟なので当然か…
カトリーナ前のニューオリンズを舞台に豪華俳優が演技合戦、全てを失い意気消沈して別人と化した〇〇〇〇〇〇〇〇の演技は見事だが、ヤリ手と銘打った割に場当たり的な力技のジーン・ハックマン、大物然とした佇まいに反して其れ程に活躍しないジョン・キューザック、存在意義が見出せない弁護士助手、何の根拠からか自信だけは満々な正義漢のダスティン・ホフマン…好きな映画だけど考えてみると何だかなぁ…あっレイチェル・ワイズは良かったよ!
銃社会が云々より、陪審員制度の方が問題と思うのだが…