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東京物語のtakのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.7
言わずと知れた小津安二郎監督の代表作。なんで今まで観てなかったんだろ。観る機会はいくらでもあったのに。長く映画ファンを名乗っているのに、これを観ていないなんてちゃんちゃらおかしい…と自分で自分を恥じてきた。今回、やっと鑑賞。語り継がれる作品って、やっぱり説得力がある。

尾道から東京へ、子供たちを訪ねる周吉ととみ夫婦の物語。長男長女は日々の忙しさから親の来訪に十分に構うこともできない。時間をとって優しくて接してくれたのは、戦死した次男の妻紀子だけだった。尾道に戻って数日後、妻とみが危篤に。子供たちは次々と集まってくる。とみは亡くなり葬儀が終わる。長女は末っ子京子に形見分けの相談を早々にして、長男とともに東京に戻っていった。京子はそれに憤るが、それぞれの立場があると紀子は優しく諭す。周吉は紀子に妻に優しくしてくれた礼を言う。

ストーリーや長男長女の言動を見れば、確かに血縁でもない紀子がいちばん親切で、実の子が冷淡な印象だ。でも、登場人物の誰がいいとか悪いじゃない。年齢を重ねていけば、家族もそれぞれの生活がある。いつまでも同じようにはいかない。家族もだんだんと変わっていくものだ。東京にやって来た両親に、二人の子供は尾道ではできない時間を与えることで満足してもらおうとする。でも周吉もとみもそんなことを求めてはいない。そんな気持ちのすれ違い。それぞれの立場がわかる今の年齢で観るからこそ、理解できるのかもしれない。長男長女が喪服を持参して尾道に行くのは、決して冷淡な訳ではない。もしもの対応をしなければならない現実があるからだ。

原節子演ずる紀子との時間が楽しかったと、老夫婦が感じたのは、お互いに喪失感を共有しているからだろう。しかし、そんな思いも次第に変わっていくもの。紀子も、亡くなった夫を思い出すことも少なくなっていることを口にする。
「お義父さまが思ってるほどいい人じゃありません。わたし、ズルいんです」
クライマックスの原節子のひと言に思わず涙する。

そして笠智衆がひとり海を眺めるラスト。そこに漂うのは喪失感や寂しさだが、「晩春」のラストの寂しさとは全く違う。ここには過ごして来た時間の重み、人生の深みがにじみ出ている。人生っていろんなものを失いながら続いていくものなのだと思った。それは寂しい事ではあるけれど、避けられないことでもある。それだけに、過ぎ去った時間が愛おしい。今の自分の年齢で観てよかったのかもしれない。
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