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映画女優のakrutmのレビュー・感想・評価

映画女優(1987年製作の映画)
3.3
日本映画史を代表する大女優である田中絹代の半生を描いた、市川崑監督のドラマ映画。本映画の原作は『小説 田中絹代』であり、その著者である新藤兼人監督が脚本にも参加している。「吉永小百合99本記念映画」とクレジットされているが、なぜ99本が記念になるような区切りなのかは、よくわからない。ちなみに、吉永小百合100本記念映画は、同じく市川崑監督の『つる -鶴-』。

ノスタルジックな映像とシンセサイザーによる現代的な劇伴は、金田一耕助シリーズや『細雪』のような文芸シリーズと同じような、いかにもこの時代の市川崑らしさを感じさせる作品で、個人的には嫌いではない。田中絹代の人生をオーソドックスに描かずに、(何らかの恋愛関係にあった)何人かの監督との関係にフォーカスした内容も、理解できないわけではない。それでも、良作という言葉で表現するのは躊躇してしまう出来なのである。

何が悪いかと言うと、やはり田中絹代を演じた吉永小百合だろう。1960年代の日活で活躍した若い頃の彼女が輝いていたのは事実であるが、残念ながら大人を演じる女優としては二流であるように思う。それは本作でも当てはまり、演技も表面的で、内面からにじみ出るような感情までは感じられない。田中絹代という女優の人生はかなり波乱万丈だったと思うだけに、鑑賞者がそんな彼女の感情・感性を実感できるような映画になっていないのが残念なのである。

これも市川崑監督がよくやることなのだが、若い頃の田中絹代を吉永小百合にそのまま演じさせるのも、かなり無理がある。田中絹代が松竹蒲田撮影所に入所したのは15歳なのに、それを40歳過ぎの吉永小百合が演じているのだから、最初から時間感覚が全然わからない。田中絹代を知らない人にとっては、清水宏(吉永小百合よりも15歳も若い渡辺徹が演じているのもびっくり)との関係を描く前半と、溝口健二との関係を描く後半で、20年以上の時間が経っていることなど、理解できる余地もない。そうすると、ともに落ち目であった田中絹代と溝口健二が起死回生を狙って『西鶴一代女』に賭けたという緊迫感も伝わらないことになり、本当に残念なのである。

田中絹代以外の主要な登場人物だけに、取ってつけたような偽名を使っているのも、潔くない。しかも、音声で聞くだけだと実名と区別できないような読みを当てる(清水→しみず→しみつ→清光、五所→ごしょ→ごしょう→五生、溝口→みぞぐち→みぞうち→溝内)のも、洒落ているという言い方もできるが、個人的には姑息にしか感じない。小津安二郎などは実名のままなので、すべての実在する人物は実名で通すくらいの心意気がほしかった。実名だからってすべて史実に基づくなんて思わないよ。だって、事実が何かなんて、本人たちが他界している当時、わかりようがないのだから。(他界していなくても、当事者以外がわかりようがないが。)
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