カトキチ

ラルジャンのカトキチのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
5.0
評論家の佐々木敦は「何も写ってない、何も語ってないのが映画の理想」であると北野武の映画評論に書いた。すごくおもしろいなと思った。実際芸人で「しゃべり」を武器にしてきたはずの北野武が監督デビュー作で行った演出は圧倒的な「沈黙」だったからだ。

しかし、映画である以上、そこには何かが写ってないといけないし、例えセリフがなかったとしても映像で何かを語らなければならない。それをわかったうえで「何も写ってない、何も語っていない」映画こそ究極なのではないか?と佐々木敦は問いかける。それは恐らく演出を極限まで削り、90分くらいのランタイムで人々を感動させられるのか?ということでもある。

かつて、その挑戦に挑み、フィルモグラフィの最期……つまり遺作でそれを成し遂げた監督がいた。

ロベール・ブレッソンがその人である。

『ラルジャン』はニセ札をつかまされた青年が堕ちに堕ちていくノワールだ。

ここにはある種「何も写ってない、何も語っていない」という映画の桃源郷がある。究極のミニマリズムがある。圧倒的なインタレストがある。前人未到の境地が、まさに映像編集のアルティメイタムがある。

映画が雄弁でないのだ、これ以上は何も言うまい。心して観るが良い。
カトキチ

カトキチ