ガンビー教授

ラルジャンのガンビー教授のレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
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世界に混入した異物としての偽札、それが媒介となって一人の青年を転落させていく過程を描いている。何より映像が冷たく硬質でかっこいい。レストランでけんかになったあと、思わずつかみかかるイヴォンもおそらく転倒したであろう店員も描かずにふっとたなびくテーブルクロスを映し出すような瞬間の切り取りかた!(あの瞬間は美しいが、単にものの振る舞いだけを切り取って映像として提示されたところでああいう感動は生まれない。劇映画のなかでふっと提示されるからこそはっとさせるものがある)あるいは、惨劇を直接描かずに手にこびりついた血を洗い流すところだけ描いたり、暗闇に転がる死体のそばを駆けまわる犬を映す(と言うより、犬が部屋から部屋へ移動すると一体、また一体と死体が映し出される)など、表現はあくまで乾燥している。即物的極まりない映像の連なりによって、出来事の連鎖・因果・その偶然と必然をたんたんと語っていくタッチにしびれる。そしてそれを受け止める役者たちのうつろな表情も素晴らしくて、なにより、絶望しているのか達観しているのか判然としないあの老婦人からにじみ出る凄みにはちょっと言葉が出ない。

「偽札が媒介となって」と書いたが、もはや映画の後半には偽札はまったく出てこない。では、彼を転落させ、不幸(というよりは絶望)のどん底へと引きずり落とし、あの結末に導いたものはいったい何なのか? 最後に彼が叫ぶ「ラルジャン!」という声が彼自身がひねり出した断末魔のように空々しくも重く響いてくる。そのラルジャンもついぞ発見されることはない。

そして幕切れ、彼が連行されていったあとで野次馬たちが覗き込む店内。彼らは何を見ているのだろうか? その空白についてずっと考え続けている。
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