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悲夢(ヒム)のnetfilmsのレビュー・感想・評価

悲夢(ヒム)(2008年製作の映画)
3.3
 乱反射する街灯に照らされながら、真っ暗な夜道を男の車は疲れ切った様子でゆっくりと走っている。左カーブをゆっくりと抜け、見通しの良い道路に抜けた矢先、男の車は対向車と出合い頭に事故を起こす。慌ててハンドルを切った対向車からはケガをした運転手がこちらに向かい何かを訴えかけるが、あろうことか男は車でその場を立ち去る。だがそれから少し発進したところで、今度は車道を歩く老婆を引いてしまう。その時男は悪夢のような夢から現実に引き戻される。喉の渇きを潤した後、あまりにも生々しい夢が怖くなって、男は当の現場へと行ってみる。するとそこには夢と1mmたりとも違わない凄惨な事故の光景が広がっていた。男は信じられない様子で自白しようと警察に向かうが、あろうことかそこには今回の事件の犯人の女ラン(イ・ナヨン)の姿があった。だが彼女はまったく身に覚えのないことだと無実を主張する。女は事件が起きた12時頃には部屋で寝ていて、早朝5時に警察に叩き起こされたのだと言うのだ。

 女はジン(オダギリジョー)の見た夢を実際に行動に起こす。彼の夢世界の中の住人なのだ。夢遊病者は過去の断ち切りがたい恋愛にピリオドを打ちたいと考えている。しかしそれは彼女にとって最悪な事態を意味するのだ。夢を見る男はランの行く末を見通す。祈祷師は2人が結ばれればそれで良いと語るが、痛みや苦しみを背負った2人は、まずは夢遊病者たちの幻惑のどこかにエラーがないか考えてみる。ヨーロッパやハリウッドならば今作のプロットをSF設定に書き変えただろうが、キム・ギドクは今作の背景に仏教の要素を散りばめ、禁欲的な悲恋として描く。男が女を覗き見たいと考えた時に、夢の世界で彼女の行く末を凝視出来ることはこの上ない喜びに満ちている。ジンはランと別の時間に寝ることを思い付くと、彼女を自分と同じ手錠で結ぶ(幽閉する)。それは夢遊病者たちの彷徨を妨げる行為であると同時に、女を独占する至福の時間となるのだが、睡魔という欲望に魔物が巣食う。ジンがプレゼントした蝶のネックレスは重力に抗うことはないが、もう一人の自分の死を目前に飛翔する。その重力に抗う姿はただただ美しく、儚い。
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