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私の20世紀の一人旅のレビュー・感想・評価

私の20世紀(1989年製作の映画)
5.0
イルディコー・エニェディ監督作。

20世紀初頭を舞台に、幼い頃に生き別れた双子姉妹の人生を描いたドラマ。

『心と体と』(17)がベルリン映画祭金熊賞に輝いたハンガリーの鬼才:イルディコー・エニェディの長編初監督作品で、数奇な運命を辿っていく双子の姉妹を魔術的なモノクロの映像に乗せて映し出しています。

1880年、アメリカ・ニュージャージー州でエジソンが発明した白熱電球のお披露目会が行われていた頃、ハンガリー・ブダペストの貧しい家で双子の姉妹、リリとドーラが誕生した。やがて孤児となった姉妹は路上でマッチ売りをするようになったが、ある日の夜、姉妹はそれぞれ別の紳士に引き取られていく。そして時は流れ1900年の大晦日、内向的な革命家となったリリと大胆不敵な詐欺師となったドーラはオリエント急行で偶然乗り合わせるが―という物語で、蝋燭から白熱電球へ、ロバから汽車へ、伝書鳩から電報へ…と飛躍的な科学の発展を背景にして、再び人生の歯車を噛み合わせていく双子姉妹の数奇な運命を、姉妹を同一人物だと勘違いしてしまった一人の紳士との恋と性愛を織り交ぜ描いています。

漆黒の空に白雪や汽車の白煙、電燈の灯りが鮮烈なコントラストとなって幻想的に浮かび上がるモノクロの映像美が全編を貫き、19世紀末から20世紀初頭にかけてのノスタルジックな時代の空気感覚まで感じ入らせてくれる―摩訶不思議な魅力を放った人間交錯ドラマで、リュミエール兄弟が発明したシネマトグラフが人々の関心を集めている様子に、科学が生んだ映画という偉大な作り物に対するイルディコー・エニェディ監督の深い愛着と懐古を感じ取ることができます。

そして、対照的性格の双子姉妹(&母親)を一人三役で巧みに演じてみせたハンガリー出身の女優:ドロタ・セグダの可憐なルックスが輝きを放っています。
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