Hiroki

秋刀魚の味のHirokiのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.0
描かれているのは単に「古き良き」日本の風景ではなくて、むしろそれの残り香。敗戦と高度経済成長によって崩壊していく明治以降の近代日本と現代の到来、家父長家族から核家族への移行。後期になればなるほど小津作品にはそれが表れているように思う。

笠智衆が演じているのは、理想化された近代家族の父像。口数は少ないが優しくそして威厳があるいいお父さんで、「古き良き」価値というものが、ここに確かに存在していたと感じられる。一方で娘を早く嫁にやろうとし、そして息子夫婦に早く子どもを産ませようとするところを見れば、笠智衆は家父長的なものを象徴する存在でもある。そういった価値観はもちろん、その後も長く残り続けるものではあるにしても、長男の新婚夫婦を見れば、時代は確かに変わりつつあることを感じる。伝統的な日本家屋と現代的な郊外アパート生活を行ったり来たりすることでそれは視覚的にも明らかに示されてる。

軍人時代を懐かしむおじさんたちの描写はそれを美化しているともみれるけれども、ここはおじさん達に同情してしまった。そういう理不尽と暴力の時代に生きた人々のたくましさを感じました。
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