よねっきー

秋刀魚の味のよねっきーのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.6
驚くほどにストーリーの大筋が『晩春』と何も変わらないんだが、タッチが全然違う。なぜか「嫁ぐ娘と、見送る親父」の話ばかり撮っていた小津安二郎。生涯独身だった彼は、何に執着してたんだろうね?

音楽と会話劇が洒脱。一切の無駄なく緻密に構成され、鬼気迫る完成度だった『晩春』と比べて、かなり肩の力が抜けてる感じ。映画として不要なショットはないけど、作劇上不要な(なくても成立する)シーンは結構ある気がする。なんか、巨匠ってみんなこうなっていくよな……。どんどん映画がグルーヴィーになっていくというか。

くすんだ画面の中で、差し色みたいな赤がいい。静かな映像に、陽気なリズムが生まれてる感じ。かなり計算してただろうな……。モノクロはほぼ構図だけ考えてればいいけど、カラーとなると考えることが増えるから、小津みたいな画面を作り込む監督にとってこの技術的進歩は大変だっただろうな、なんて想像する。

省略のセンスが良い。「あいつ死んだよ」とか「おまえ、一足遅かったよ」みたいな、しょうもない冗談を一瞬おれらに信じさせてくる感じ。それと同様に、娘の嫁ぎ先まで省略してしまう。最後に残るのはカラッとした寂寞感だけ。「お葬式ですか」に「うん、まあ、そんなもんだよ」と答える笠智衆が良い。そんなもんだよなあ。
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