dita

父ありきのditaのレビュー・感想・評価

父ありき(1942年製作の映画)
4.0
小津作品は少なからず精神をやられてしまうので元気な時に観ようと思っており、今日はそれほど元気ではないものの、父と息子の話であるからして大丈夫だろうと思っていたら、父の「おいお前、ライスカレー食うか」で落涙し、観終わった今となってはしっかり精神をやられてしまってほとほと困っている、自業自得。

「ありき」とは「過去にあった」ものや、「現時点である」ものに対して使われるそうで、まさに幼少期の父の務め、父の影響を色濃く受けた青年期、そしてラストシーンで改めて思いだされる父の存在感が際立っていた。相容れることが出来ず、反抗はせずとも距離を置くことで父の存在感から逃げ続けているわたしにとって、立派になってほしい、お前には頑張ってほしい、そして「今日はとても気持ちがいい」という台詞が重く響いた。父が死ぬまでに、わたしは父をそんな気持ちにしてあげることが出来るのだろうか。

加えて、死の存在感をとても強く感じた。母の不在、生徒の事故、釣り、そして父との別れ。戦争に向かいつつある時代、反戦を叫ばずとも、突然やってくる死の悲しみ、直接的ではないにせよ奪ってしまった命に対しての責任、そして人生をやり切った後に迎える死ですら、生きている者にとってこれほどまでに胸を締め付ける出来事であること、小津が本当に描きたかったテーマはこちらなのではないかとさえ思った。

遠くない未来に迎えるであろう自身の親の死に向き合った時、わたしは泣くのだろうか。感謝出来るのだろうか。後悔先に立たずなのは知っている。孝行したい時に親はなし、と毎日自分に問うている。少し前までは、親が死んだら解放されると思っていたけれど、今となっては、親が死んだ後のほうが何十倍もその存在感に苦しめられるのだろうなと思っている。もっと元気な時に観ればよかった。辛い。
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