教授

父ありきの教授のレビュー・感想・評価

父ありき(1942年製作の映画)
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約80年前の映画。というにはとても老成していて、情緒的な人情話が展開されると思いきや。
教師をやっていると思われる笠智衆が引率する、生徒たちにとっては楽しい修学旅行からの惨劇。冒頭いきなり唐突に展開される「死」。

その生徒の死に心を痛め。もう生き死にに関わりたくないと田舎に逃避する。そして息子を育てるために今度は上京。
息子とは別々に暮らすことを決める。

そこでいきなり時間はかなり経過し、10歳の息子は25歳。成人し父親と同じ教師になっている。
長閑で淡々とした空気感の割に、アクロバティックな展開の目まぐるしさ。

そもそもが親一人子一人。完全に親の愛情に渇望しきった姿を佐野周二の半笑いの表情がなかなかに切ない。
ほぼほぼ棒読みに近い笠智衆の「しっかりやれよ」という言葉に厳しさや優しさや、深い愛情の奥底にある虚無感や、それら表向きの感情を押し隠した父親像がなんとなく不穏でもある。

とにかく離れ離れの時間が長く、ようやく一緒にいられても、どことなく距離感を感じる二人。
当時の親子関係がそういうものだった、と言われればそうなのかもしれないが、それでも「感情」というものからは距離を置いた演出になっている。

ラストを訪れる、これまた唐突な「死」もまた「良い気持ちだ…」などと達観したことを言うが、要するに死で始まり死で終わる物語なわけで、通底するのは「諦念」であり、人生というものは苦楽に対して表情に表すものではなく、グッと押し留めるものだ、という「日本人の美徳」というよりも、より冷淡に俯瞰し相対化してみせる、という点で、変に新しさを感じた。
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