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麦秋のtsのレビュー・感想・評価

麦秋(1951年製作の映画)
3.8
娘の結婚話をきっかけに、家族が離れ離れに散らばってゆく様子を描いた映画。戦後間もない頃の映画であるせいか、戦争の爪痕(次男)がまだ鮮やかに残りつつも、女性の社会進出であったり、自動車にあふれる東京の街並みであったり、また、いちごのショートケーキといったハイカラな嗜好品であったりと、戦後の復興から日本の高度経済成長へと繋がる、明るい予感を与えてくれる映画だった。

小津安二郎の映画は、絵空事でない、リアルで身近な描写を通じて、人生のお手本を示してくれる。この映画も、どこにでもありそうな家庭を描き、どのやりとりや会話も「わかる」ことに驚かされた。そして、娘の結婚を皮切りに家族は離散してゆくが、それについて、いつかはそうなる、そういうものなんだ、というセリフが心に残った。麦秋は黄金色に輝く実りの時期であることを考えると、この「変化」は悲しいものではなく、喜びに満ちたものとして、描かれているのだろうと理解した。変化は決して避けることはできないが、それをどう受け入れるかをこの映画(だけでなく、その他の小津監督作品)は教えてくれている気がする。そういう意味では「東京物語」からも同じメッセージを感じた。


ちなみに、小津安二郎といえば、低いアングルからの固定カメラと思っていたが、いくつか動きのあるシーンがあって意外だった。それでも、様式美というか、小津監督らしい美しさを感じた。

あと、原節子の美しさに見とれてしまった。強く、明るく、愛嬌があり、そして麗しい。知的で、礼節があり、謙虚。うーむ、、完全無欠じゃないか。
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