せんきち

ディア・ドクターのせんきちのレビュー・感想・評価

ディア・ドクター(2009年製作の映画)
3.9
高齢者が人口の半分を占める過疎の村。そこでは役所が無理矢理見つけて来た一人の医師伊野(笑福亭鶴瓶)が全ての村民を任されていた。村民からの信頼も厚く”神様”扱いの伊野。そんな村にボンボンの研修医相馬(瑛太)としてが派遣される。あまりのド田舎っぷりにとまどいつつも自分の医療行為が素直に感謝されることに相馬は遣り甲斐を見つけていく。そんなある日、伊野が失踪する。捜索担当の刑事は「伊野はニセ医者だ」と言うのだが…


・粗筋を読めば分かるが『ブラックジャック』のニセ医者のエピソードと全く同じだ。脚本は西川美和のオリジナルでパンフによると「四国の白タクが捕まってお年寄りが病院に行けなくなった」記事を読んだことがヒントになっているという。西川(若しくはスタッフ)が『ブラックジャック』を知らない筈がないと思うのだが、言及してないのは権利関係の問題なのだろうか?『ブラックジャック』の翻案であったとしてもこの脚本の出来に傷はつかないと思うが。

・役者の演技はどれも素晴らしい。主演の鶴瓶は当然として、瑛太、余貴美子、香川照之、笹野高史、八千草薫(ノーメイク!)が良い。特に余貴美子は別格。良い映画ばっかり出る役者というのはいるもので、香川照之、笹野高史、松田龍平は出ているだけで安心できる。その対極にいるのが大沢たかお。地雷映画である可能性が高くなります。

・説明台詞の多い邦画ばかり溢れているので本作のような”絵”で説明する映画は最早希少である。特にシングルマザー看護婦(余貴美子)が自分の子供(喘息)を世話する数秒の1カットが素晴らしい。この1カットと余貴美子の表情だけで、この女性がどんな人生を生きて来たか、どれだけ「生きるだけで精一杯」なのかが分かってしまう。この看護婦の姿は「生きるだけで精一杯」な村民の象徴でもある。小説では出来ない映画だから出来ることなのだ。


限界集落が増加、解消されない医師不足とタイムリーな作品である。地味だが傑作なので是非観て欲しい。
せんきち

せんきち